脳のニューロン(神経細胞)には1000本の入力端子(シナプス)があり、本体に入って重みづけ和ののち非線形演算を行って1つの出力を出すという構造になっています。1000本の入力端子それぞれが他のニューロンの出力につながってその出力(電圧パルスの頻度)を受け取り、また演算して、という過程が1000億のニューロンにわたって行われるわけです。この構造を電子回路で作ろうとすると配線であふれかえってしまいます。
私が講義で見せている昔のスーパーコンピュータのようになります。下記の図で青いのが配線で、圧倒的な体積を占めています。修理のときはこれを解きほぐす必要があるので大変だったでしょう。
https://en.wikipedia.org/wiki/Cray-1#/media/File:Cray-1-p1010227.jpg
それを避けるために幹線道路(busバス という。”32bit”,”64bit”などのCPUの数字はbusの本数。)をつくって高速で名札付きの信号を送るというのが今のコンピュータCPUがやっている方法ですが、さらに速くしようとするとバスを太く(本数を多く)する必要があり難しいです。超伝導量子回路の場合はただ線でつなぐのではなく、超伝導の輪でつなぐ必要があるので配線の本数を増やすのはさらに困難になります。
そこで、D-wave社は8つのSQUID(量子ビット)を4個2組にしてそれぞれお互い4つにつなぐという方式をとっています。
https://dwavejapan.com/app/uploads/2020/12/14-1026A-C_J-Next-Generation-Topology-of-DW-Quantum-Processors.pdf
同社は繋ぎ方(topology)の方式の世代ごとに chimera, Pegasus, Zephyr という名前をつけています。どれもギリシャ神話で、キメラは蛇とライオンが合体した怪物、ペガサスは天馬、ゼファーはそよ風の神です。
4個ずつは少ないかもしれませんが、いくつも辿っていけば任意のネットワークを作れると思います。ただ、必要な量子ビット数は増えます。
脳の配線も近場でなるべく済ませているはずで、信号を長距離に飛ばすときのための中継専用のニューロン(投射ニューロン)の存在も確認されています。
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%8A%95%E5%B0%84%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3
15mK(ミリケルビン)を作る希釈冷凍機の話は長くなるので来週に回しましょう。暑いので涼しい話ができるといいと思います。
英語は https://en.wikipedia.org/wiki/Projection_fiber
“Projection fibers consist of efferent and afferent fibers uniting the cortex with the lower parts of the brain and with the spinal cord.”
efferent 遠心性の (脳→体)
afferent 求心性の (体→脳)
fiber 繊維
cortex 皮質
spinal cord 脊髄
”In the neocortex, projection neurons are excitatory neurons that send axons to distant brain targets.”
neocortex 大脳新皮質
excitatory neurons 興奮性ニューロン
axon 軸索 神経細胞の出力端子までの配線。先端の出力部分は枝分かれして他のニューロンの入力端子につながる
“(3) numerous fibers arising within the thalamus, and passing through its stalks to the different parts of the cortex;”
thalamus 視床
hypothalamus 視床下部
stalks 茎