世界の研究所:横浜国立大学・台風科学技術研究センター

先週は台風10号がたいへんでした。被害にあわれた方にお見舞いを申し上げます。今週は台風や竜巻からエネルギーを取り出すという大胆な構想を紹介します。 研究所としては、横浜国立大学の台風科学技術研究センターです。 https://trc.ynu.ac.jp/ ここは内閣府のムーンショット計画に採択されています。台風から発電してエネルギーを取り出し、勢力も弱めることができれば素晴らしいですね。技術的困難はちょっと考えただけでもたくさんありますが… https://typhoonshot.ynu.ac.jp/ 小規模なものとしては、竜巻を使って発電しようとする個人のインタビューがyoutubeにありま…

レーザー冷却、およびそれを利用した反陽子の冷却

文献を見つけました。反水素を作る時の冷却の時は、レーザー冷却したBe+イオンをぺニングトラップに入れ、温度(運動エネルギー)の高い反陽子が入ったぺニングトラップと電気的に結合することにより温度を下げるそうです。 実に賢いやり方ですね。 https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2022_03/jspf2022_03-126.pdf https://www.riken.jp/press/2021/20210826_1/index.html レーザー冷却は、イオンの吸収波長に合わせたレーザーを使います。レーザー光を吸収波長よりも少しだけ低いエネルギー(…

反陽子+陽電子→反水素原子

CERNのbase collaborationを見ていますが、反陽子を供給しているのはalpha collaborationです。 https://www.youtube.com/watch?v=uEL7-kDvwBM これは反水素(陽電子+反陽子)を作って精密な分光をして、通常の水素と比べるのが目的です。反水素を作る実験について、ゲーム形式で体験できるサイトがあります。 https://massen.web.cern.ch/hoat/ 実験の流れが下記に説明されています。 https://alpha.web.cern.ch/experimental-cycle 反陽子のような通常存在しない素…

ぺニングトラップ

昨日紹介した論文は凝った実験で説明が難しいです。 荷電粒子を磁場中に高周波電場でサイクロトロン運動(ローレンツ力による円運動を止めないように電場を与える)させて真空中に保存する「ぺニングトラップ」というのを駆使しています。 異なる構造のぺニングトラップを連結させて、熱運動による円運動の揺らぎを減らすように行ったり来たりさせます。不均一磁場を使って円運動の熱揺らぎを軸方向の振動と混合させ、もう一つのトラップに輸送してから軸方向の振動にちょうどよい時間だけブレーキをかける、という過程を繰りかえすというイメージでしょうか。右向きに動いているものだけを取り出してその向きの成分を減速させる、というのがM…

世界の研究所:CERN BASE collaborationによるMaxwell’s daemon

涼しくなるように、今週は物質を冷却する話をしましょう。2週間前にCERNのBASE collaboration(barion-antibarion symmetry experiment)から出た下記論文がSNSのtime lineに上がっていました。 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.053201 反陽子を加速器で作ると、そのままでは高速すぎて精密な実験ができないので、減速・冷却して真空中に浮かせて保存します。そのための新しい方法を開発したという論文で、数時間かかっていたものが500秒になったということ…

木琴とマリンバは倍音が違う

昨日は分子振動が混じる「フェルミ共鳴」のそもそもの原因は、振動しているものが共通であることにある、という話をしました。固体中での原子の振動は熱や音波として現れます。音を二方向からいれると混じるはずですが、積極的に使っている例はないようです。形状の影響が大きいからかもしれません。 調べていたらいくつか面白いものが引っかかりました。木琴とマリンバでは倍音が違うために音色が違うそうです。木琴は基本波と3倍波、マリンバは基本波、4倍波と10倍波だそうです。マリンバは他の楽器(弦楽器や管楽器など)に合っているのでオーケストラに溶け込み、木琴は合っていないので目立つとのこと。木片を削って調節しているようで…

CO2分子のフェルミ共鳴

先週、解説しかけていたなぜCO2の温室効果が大きいか、についての論文を読んでみましょう。鍵は「フェルミ共鳴」です。 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ad226d/pdf これは、分子振動において整数倍に近い振動数のモードがある場合、片方を励起するともう一方にもエネルギーが移る、というものです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Fermi_resonance CO2においては、667cm-1の変角振動と1337cm-1の対称伸縮振動が2倍の関係に近いので、フェルミ共鳴が起こります。ちょうど2倍からずれている…

人体の耐熱性

先週お休みの前はCO2の話をしようとしていましたが、後回しにして、人体の熱耐性について昨日のシドニー大学の研究所を見ていきましょう。 https://www.sydney.edu.au/medicine-health/our-research/research-centres/heat-and-health-research-centre/our-research.html BBCの番組も見つかりました。所長が解説しています。 https://www.bbc.com/storyworks/the-climate-and-us/the-university-of-sydney 同所からの下記の論…

コンクリート打設の動画、打ちっぱなしの丸い穴

コンクリートは建設現場ではどのように固められるのでしょうか。下記動画を見つけました。 https://www.youtube.com/watch?v=cUuur7MD3y0 コメントにもありますが、一発勝負感が強い、と思います。ぼやぼやした人がいると怒られそうです。また、空気が入らないように高速バイブレータや手持ちのハンマーであちこち叩いているのが面白いです。 「打設(だせつ)」という工程のようです。しっかり押し固めることで強度を出すとのことです。気泡を抜くのが大切ではないかと思います。固まるまでに1週間だそうです。工程管理がたいへんそうですね。 https://www.tachikawa-k…

セメント専用の化学式

セメントの化学は金属酸化物の水和反応ですが、その際に少し溶けて複酸化物ができるところが面白いです。石膏を2-5%程度混ぜてSO4^2-が表面に吸着することにより結晶成長を抑えるなど高度なノウハウがあります。発熱もかなりあるそうなので(断熱すると40℃上昇など)、金属種ごとの溶解度の制御も可能ですね。また、気泡が入ると弱くなるとのことで、温度管理や混ぜ物(コンクリートには様々なものが入っています)も大切です。 独特の化学式が使われているので、最初は面食らいます。 https://en.wikipedia.org/wiki/Cement_chemist_notation に詳しく出ていますが、Cは…