分子運動のシミュレーション

分子動力学計算をすると例えば下記のような動画が得られます。これは私が計算した有機分子(フタロシアニン)の蒸着過程です。これは12コアの計算機で数時間で終わりました。 https://www.youtube.com/watch?v=87oRvq8zmUA 原子がピョコピョコ動いているのが分子振動で、10^-12秒(1ps)の桁の時間です。 分子をバネと質点であらわすのが古典分子動力学で、上の動画はそれです。粗い近似で、化学結合の組み換えは扱えません。 例えば、CO2が水に溶けて炭酸水になる過程などの計算はできません。 一方、量子力学を使って分子の電子状態をちゃんと考えてから復元力を求めて行うこと…

世界の研究所: Penn State Materials Research Institute と ReaxFF

今週の世界の研究所は The Pennsylvania State University (PennState) の Materials Research Institute を取り上げます。Penn Stateは、昔から材料科学に強く、特に強誘電体の研究では世界的な研究者がたくさんいました。 https://www.mri.psu.edu/mri/facilities-and-centers 現在は2次元物質、強誘電メモリ、誘電体及び強誘電体、環境発電、原子層コーティング、電池及びエネルギー貯蔵デバイス、放射能、バイオデバイス、計算科学、自己組織化有機エレクトロニクス、半導体加工ハブ、社会実…

五輪書(8) 風の巻1

金曜日の読書「五輪書」は「風の巻」の1回目です。風の巻では他流の批判をしながら自分の二天一流のエッセンスを述べています。 大きな刀や小さな刀にこだわる流派、表と奥の区別をする流派などを批判しています。原文と英語を並べてみてみましょう。 他の流々、芸にわたって、身すぎのためにして、色を飾り花を咲かせ、売りものにこしらへたるによって、実(まこと)の道に有らざる事か。 In the other schools, techniques are displayed like merchandise adorned with colors and flowers, so they can be turne…

高温ガス炉の核燃料は芥子粒くらいのウラン化合物をセラミックコートしたもの

高温ガス炉の特色は、核燃料がセラミックコートされたサブmm程度の微粒子の集合体でできていることです。大きな利点は、核分裂生成物が微粒子の外に出ていかないので安全性が高いこと(これは昨日の「塵」の問題で本当かどうかわかりませんが)、 核燃料の密度をコントロールするのが容易なため、大きさや出力に合わせて燃料を作りやすいこと、核反応を多く起こせること(大きい燃料体は核反応が進むとボロボロになると考えられますが、小さい粒子ならば変形が容易)、などがあげられると思います。日本の大洗に作っている高温ガス炉はpebble bed式でなく、棒状に固めてある(prism block)そうなので、摩擦による発塵は…

高温ガス炉の試験は西ドイツで行われ、問題点と解決策がわかった

高温ガス炉のアイデアは1944年に米国、最初の本格的な試験と小規模の実用運転は旧・西ドイツで行われています。1960年建造、1967年に商用発電開始、1988年に閉鎖です。15MWの発電能力がありました。 https://en.wikipedia.org/wiki/AVR_reactor ケルン(Köln, Cologne)の近くにあるJürich(ユーリッヒ)という町にドイツの原子力研究所があり、そこに建設されました。 その技術が中国に移転され、2021年から稼働している210MWの高温ガス炉になっています。その意味で「世界初」というのをどうとらえるかは議論がありそうです。 https://…

ヨウ素-硫黄サイクルによる水分解で熱エネルギーから水素を作る

高温ガス炉では950℃のヘリウムを作ります。熱の発生の原理は単純で、臨界状態の放射性物質の核反応による発熱です。ウラン235など一部の放射性物質は、原子核分裂を起こすときに高速の中性子を出します。高速中性子はウラン235との反応性が低いですが、減速材で速度を落としてあげると別のウラン235にぶつかったときに核分裂を引き起こします。これが連鎖反応です。連鎖反応が過激に起こると原子爆弾になってしまいますが、ウラン238等核反応しない物質で適度に薄めた核燃料では制御された発熱ができます。 中性子の減速と遮蔽が制御には重要で、中性子を吸収する物質(ホウ素、カドミウム等の化合物)でできた制御棒を入れて中…

世界の研究所:日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(JAEA-HTTR)

今週の世界の研究所は、日本原子力研究開発機構(JAEA)の高温工学試験研究炉(High Temperature engineering Test Reactor)を取り上げます。 3月28日に冷却停止時の安全性確認試験をして、実証されたというニュースがありました。 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02298/032900009/ セラミックスで覆われた粒状の特殊な核燃料を使うことにより冷却が行われなくても安全性を確保しているそうです。熱媒体は950℃まで加熱されるヘリウムガスです。この熱を使って水素を作るそうですが、どうやるのでしょうか。…

五輪書(7) 火の巻2

金曜日の読書「五輪書」は「火の巻」の2回目です。前回は1:1の戦いに重点を置いた記述を説明しましたが、今回は軍勢を率いる場合について紹介します。 1 「景気を見る」 敵味方の勢い、数、心理を分析し、確かに勝つというところを確信して、先手を取って、戦う。 2 「剣を踏む」 敵が行動を起こそうとするところを踏みつけて勝つ。 3 「ひしぐ」 頭から抑え込む。これは敵が少ない場合がよいが、多くてもうろたえているときは有効である。しかし「ひしぐ」力が弱いと盛り返されるので、手の内に握って抑え込み続ける気持ちが重要。 4 「おびやかす・うろめかす」 おどかしたり意表をついて動揺させる。 5 「かどにさはる…

チョコレート関係の発明

カカオ豆を発酵、乾燥、加熱によりカカオニブを作ってから、長時間練ることで脂肪分を分離してココアバターを作るのだそうです。 残ったものがカカオマスで、これは飲料のココアの成分です。カカオマスとココアバターを混ぜる比を変えてビター、ミルク、ホワイトなど色々なチョコレートができるそうです。舌触りは20μm程度の粒子から生まれるとのことで練ったりたたいたりする工程が重要だそうです。 https://www.morinaga.co.jp/yomu-cocoa/trivia/howto.html 融点が33.8℃と体温に近いことがココアバターの特徴で、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸がグリセリンとく…

カカオは土壌から重金属を吸い上げる

カカオの木は土壌から重金属を吸い上げる性質があるようです。カカオ中のNiやCdは中南米など場所によっては問題になっているようですが、販売されているものは当然基準をクリアしているので大丈夫のはずです。 https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2022.1055912/full ガーナでは金の違法採掘による土壌汚染で生態系に影響がありカカオの授粉に影響が出ているようです。まさか昔のように水銀を使っているとは思わないですが… https://www.intechopen.com/chapters…