エネルギー回収型加速器

自由電子レーザーSACLAの諸元は下記に出ています。 http://xfel.riken.jp/users/bml02-11.html 8.5GeV の電子が0.2-0.3nCの塊(バンチ bunch)で飛んできて光と相互作用するようです。時間は20fs。 1バンチあたりのエネルギーは、VとCをかけるとJの単位になるので 8.5 x 10^9 x 0.3 x 10^-9 = 2.55 J で、大したことはないです。繰り返し30Hzだそうです。 しかし、SACLAでは50MW(メガワット)のクライストロンを64台使うそうです。パルス動作だと思いますが、たいへんな電力を消費しますね。 https:…

自由電子レーザー

昨日は、真空中を飛ぶ電子の密度が空間的に変調されて「だま」をつくると電磁波を発生するという話で、電磁波が電子密度の「だま」を増強するので決まった周波数の大電力の電磁波を出せ、加速器や大型レーダーのクライストロンや電子レンジのマグネトロンがその応用だという話をしました。電磁波と電子密度変調がお互いを強めあうような相互作用をするということは、電磁波の側に共振器を作ればレーザーになるのではないか、と当然考えますね。これを自由電子レーザーと呼びます。通常の物質の電子励起では作れない波長のレーザーが作れます。日本では東京理科大の野田キャンパスに赤外用の自由電子レーザーがあります(1998年稼働)。下記が…

加速器の高周波電源は特殊な真空管

放射光実験はいいデータがとれるだけでなく、最新の測定設備を勉強できるので楽しいです。昨日の訂正で、SPring8は姫路市ではなく、兵庫県佐用郡(播磨科学公園都市)にあります。今日はクライストロン(Klystrons)の話をしましょう。 https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=1061 SPring8の「8」は電子を8GeVまで加速していることが由来です。8GeVというと、光速の99.9999998%だそうです。高い周波数の交流で同期して加速します。これは、電子源から出た電子を8GeVにまで加速するのと、円軌道を回るシンクロトロンで光として失われるエネルギーを…

世界の研究所 SPring8

今週の世界の研究所は兵庫県姫路市にあるSPring8です。 https://www.youtube.com/watch?v=pvFnXbkCfvs 電子(または陽電子)を光速に近い高速で周回させることで、シンクロトロン放射光が出ます。 http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/whats_sp8/ 山(三原栗山)の周りに建設されているところが土地の狭い日本らしいと思います。 https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=1467 円周に沿った方向に強い光がでる(0.003°)、という指向性は相対論効果である、といわれていますが、詳し…

墨子(6) 「墨攻」を見て千早城を思い出す

今日で墨子は終わりにしようと思っていますが、何を取り上げようか悩みます。一部の節は「なぜ」「○○だから」「では、それはなぜ」と問を繰り返すスタイルで、現在でも発想法として有効とされている方法を使っています。その結果、論理学の説明とも解釈される短文もあります。異色の思想家であることは間違いないでしょう。話は変わりますが、墨家による籠城戦を扱った日本の小説で「墨攻」というのがあって、漫画化され、さらに中国・香港・韓国・日本の合作で2006年に映画化されています。よくそんな題材を思いついたな、と感心します。webで購入できるので見たかったのですが、最近ちょっとバタバタしていて今日には間に合いませんで…

クェーサーで悩みを吹き飛ばそう!

今週は観測可能な宇宙(数百億光年)の三次元地図が作られつつあること、そしてその方法について解説していました。距離はスペクトルの赤方偏移で測定しますが、遠くなので非常に明るい天体が必要です。その一つがクェーサー(Quasar、準星、恒星状天体)です。恒星のように見えるが、年周視差がほとんどない遠距離の謎の天体である、と言うのが私が子供の時の情報でした。今では正体がわかっていて、「活動銀河核 active galactic nucleus, AGN」、すなわち、銀河の中心にある巨大ブラックホールに星々が活発に吸い込まれるとき、物質が渦巻状に加速されて(お風呂の栓を抜いたときが良い例え)お互いの摩擦…

宇宙の3次元地図

1989年に最初に発見されたCfA2 Great Wallや、ラニアケア超銀河団やそれ以上の銀河系の泡状集積構造がわかっているということは、億光年スケールで宇宙の3次元地図ができていることになります。例えば下記は10年前の番組ですがわかりやすいです。Sloan財団の望遠鏡も出てきます。1分10秒くらいからの格納庫が”Sloan Foundation”の響きにふさわしい怪しさでかっこいいです。2.5mで、思ったよりも小さいですね。 https://www.youtube.com/watch?v=xu2-9omdXNc https://www.apo.nmsu.edu/ 超…

宇宙のGreat Wall

銀河の分布にむらがあることは、1989年にハーバード大学の研究者によって発見されました。地球から最も近い構造は、2億光年離れたところにある、厚さ1500万光年幅3億光年、長さ>5億光年の銀河集団がつくる「壁」で、万里の長城にちなんで Great Wall と名付けられました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB その成因は暗黒物質(電磁波や光を発しないので天文学的に観測されない物質、dark matter)の分布のむらであると…

世界の研究所 Sloan Digital Sky Survey

今週の世界の研究所は、Sloan Digital Sky Survey プロジェクトです。これは米国Sloan財団が資金援助して、北米と南米の天文台に専用の望遠鏡を作って深宇宙の構造を調べているものです。 https://www.youtube.com/watch?v=n7vzVcKEqIU 最近宇宙の絵を描く必要があって、星の分布をどのようにすると実体に近いかを調べたらひっかかってきました。今週は日常生活に全く関係ない深宇宙について解説します。調子が出ないときは宇宙のことを考えるのが気分転換におすすめです。 Sloan 財団は、1934年に米国の自動車会社 General Mortorsの社…

墨子(5) 墨守

墨子関連で現在まで日本語に残っているのは「墨守」でしょう。「因習を墨守する」のようにあまりよくない意味に使うと思っていたので、良くない故事があるのかと思いましたが、「公輸」のところで出てきた、「雲梯」との机上戦で9回戦って9回とも防衛に成功した、という故事からきているとのことです(解釈が最近変わったのかと思って古い広辞苑を見ましたが同じでした)。 ただし、墨子から3代目のリーダーの下、城の守備に失敗してリーダーもろとも180人(400人?)が城と運命を共にした記録が残っています。これは楚との戦闘で、墨家はまだしばらく続きましたが、戦国時代を終わらせた秦との戦闘でも似たようなことがあって、墨家が…