マイクロRNAの発見に至る経緯:実験系をうまく選ぶことは重要である

今週のmiRNAの発見者たちは一時期同じ研究室にいました。線虫を分子生物学の素材に使って成果を上げたProf. Robert Horvitzの研究室で、Horvitzは2002年にノーベル賞をもらっています。線虫は実体顕微鏡で取り扱いやすい大きさで、透明な生物ですぐ内部がわかるため、X線や薬品で突然変異を起こさせた後、それをピックアップして遺伝子解析をするのが楽、すぐ増えるので飼うのが簡単など、多くの利点があります(使い始めたのはHorvitzのボスのSydney Brenner, 兄弟弟子のJohn Sulstonと3人同時受賞)。我々でいうと物質は普通決まっているので、実験系を選ぶのが大切…

世界の研究所:マイクロRNAデータベース

ここ3年程、「今日の英語」でどこよりも速いノーベル賞解説を目指していましたが、今年は都合により遅くなりました。申し訳ありません。物理学賞と化学賞のAIの話は、私の大学院集中講義で話していますのでそれはまたの機会にして、今週は医学生理学賞のマイクロDNA(miRNA)の話を見ていきましょう。 データベースができていますね。英マンチェスター大学の研究室が運営しているようです。 https://www.mirbase.org/ 日本語解説としては https://www.cosmobio.co.jp/support/technology/a/microrna.asp https://ja.wikip…

CO2分子のフェルミ共鳴

先週、解説しかけていたなぜCO2の温室効果が大きいか、についての論文を読んでみましょう。鍵は「フェルミ共鳴」です。 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ad226d/pdf これは、分子振動において整数倍に近い振動数のモードがある場合、片方を励起するともう一方にもエネルギーが移る、というものです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Fermi_resonance CO2においては、667cm-1の変角振動と1337cm-1の対称伸縮振動が2倍の関係に近いので、フェルミ共鳴が起こります。ちょうど2倍からずれている…

人体の耐熱性

先週お休みの前はCO2の話をしようとしていましたが、後回しにして、人体の熱耐性について昨日のシドニー大学の研究所を見ていきましょう。 https://www.sydney.edu.au/medicine-health/our-research/research-centres/heat-and-health-research-centre/our-research.html BBCの番組も見つかりました。所長が解説しています。 https://www.bbc.com/storyworks/the-climate-and-us/the-university-of-sydney 同所からの下記の論…

ラマルキズムの現状

昨日紹介した論文を引用している論文を探ってみましたが、2013年から現在まで大きな進展はないようです。哲学的な怪しい論文、Crisper-CASとの関係を主張する(怪しい?)ものなども検索に引っかかってきて面白かったです。 さて、昨日ラマルクの話を出しました。調べていると変な雑誌が多かったですが、まともな雑誌で下記が見つかりました。 https://doi.org/10.1098/rsif.2021.0334 LamarckはDarwinの前に進化について考察した博物学者で、「用不用説」「獲得形質の遺伝」の2つをLamarckismラマルキズムと言って、20世紀初頭に一部で流行した考え方でした…

本能の遺伝子レベルのコーディング

生物が刺激に対して応答するやり方には、生まれつきプログラムされているもの(本能)と、後天的に学習したものがあります。本能が遺伝子レベルでどのようにコードされているかについて、論文はあまり多くありませんが、いくつかタダで読める解説を見つけました。 https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(13)00927-6 によれば、神経細胞(neuron)に対するepigeneticsが重要であるとのことです。 epigenetics は日本語では「後成遺伝学」と訳すようですが、DNA塩基配列の変化をともなわないが、遺伝子発現の変化が細胞分裂後も継承され…

ハチの社会性は神経伝達に関係する遺伝子で決まっている

https://www.nature.com/articles/s41467-018-06824-8 を読んでみます。この論文は、”sweet bee”(コナナバチ?)の仲間の”L.albipes”という種には孤立した生活を送るハチと女王バチを中心とした巣をつくるハチの二種類があることに注目し、それぞれの遺伝子解析を行って違いを見たというものです。 その結果、”syx1a”という遺伝子のイントロンに7種類の一塩基変異(SNP)があり、変異の有無でsyx1aの発現頻度が異なるということがわかりました。syx1aはシナプス小胞…

突然変異がないと進化できない

3日お休みをいただきましたが、今日から復活します。 昆虫の進化について調べています。遺伝子と進化の関係については、「集団遺伝学」という分野があり、基本は遺伝子の変異は「分子進化の中立説」です(長い期間を考えると確率的に起こり、生存に不利な変異は残らないため重要性によって変異の起こる確率が違うように見える)。すでに何回か取り上げています。 https://www.sekaiken.com/?p=1744 https://www.sekaiken.com/?p=1168 で、そこに1回限りの歴史の物語がのっかっていると理解しています。植物は倍数化という面白い方法で遺伝子を大きく変えられますが ht…

昆虫は毒草を餌にするために遺伝子レベルであらゆる手を使っている

昨日紹介した論文は、ある種の蝶の幼虫について、突然変異によって植物が出す毒素を無効化できるようになった仕組みを解明しています。 この論文の本文は購読していないと読めませんが: https://www.science.org/content/article/how-monarch-butterfly-evolved-its-resistance-toxic-milkweed この論文で注目している植物(milkweed、日本語ではトウワタ)が出す毒素はcardinolideと呼ばれるもので、日本語のwikipediaがないですが、おそらく強心配糖体とよばれるものの一種です。 https://en…

世界の研究所:Lewis-Sigler Institute for Integrative Genomics, Princeton University,USA

先週出張していて蚊にかまれましたが、あまりかゆくありません。地域によってかゆみが違うような気がします。これは蚊の種類が違うためではないかと疑っています。花粉症などと同じで細かい種類によって蚊が血を吸うときに注入するかゆみの原因物質やその量が違うのかもしれません。 蚊としてもかゆくなければこれほど憎まれることはないでしょうから、かゆくしない方向に進化してもいいのかもしれません。昆虫の進化は世代交代が速いので速いのではないか?メカニズムはわかっているのか?という疑問でしらべたところ、下記が見つかりました。 https://journals.plos.org/plosbiology/article?…