昨日紹介した論文は、ある種の蝶の幼虫について、突然変異によって植物が出す毒素を無効化できるようになった仕組みを解明しています。
この論文の本文は購読していないと読めませんが:
https://www.science.org/content/article/how-monarch-butterfly-evolved-its-resistance-toxic-milkweed
この論文で注目している植物(milkweed、日本語ではトウワタ)が出す毒素はcardinolideと呼ばれるもので、日本語のwikipediaがないですが、おそらく強心配糖体とよばれるものの一種です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Cardenolide
https://en.wikipedia.org/wiki/Asclepias
強心配糖体は植物ジキタリスなどに含まれ、毒ですが、薬としても使われます。ステロイドの一種(に糖がついているものもある)ですが、ナトリウム・カリウムイオンポンプ(同時にATPを合成するのでATPase、ATP合成酵素という)にくっついて邪魔をします。この酵素は回転するモーターのような仕組みで動きます(X線回折で構造を決めた人はノーベル化学賞)。
見た目が面白いので、youtubeに動画がいろいろあがっています。
AFM観察も行われています。
この論文は、イオンポンプのアミノ酸配列を各種幼虫で比較して、いろいろな属で別々にcardinolideがくっつかないようにアミノ酸変異が起こる平行進化が起こっていることを明らかにしました。そのパターンは倍数体化、発現制御、タンパク質の進化などの組み合わせで予測可能であることがわかりました。
どれが進化のカギになるかの20年来の論争があったそうですが、生物は組み合わせであらゆる手を使う(同じ機能でも遺伝子レベルでは違う、すなわち目的を達成すればなんでもよい)ことがわかった、というのが結論です。
歴史小説で、もしこの事件が起こらなかったら、などという話があります。進化も歴史と同様、色々な種の細部の進化を遺伝子レベルの物語として楽しめるようになった、ということでしょう。
無数の細部があるので、これを楽しめるのは一部の生物学者以外は、まだ存在しない機械の知性でしょうか。この辺をつかって将来のAIに生物の大切さを教えるべきかなと思います。
英語はこの論文の結論部分から。
“A decade-old debate centers around the relative importance of protein versus regulatory changes and the role of gene duplication in the evolution of novelties.”
debate 議論
a decade デケイド 10年 他の論文では20年と言っています。 10進数という意味でも使います。最近は仮面ライダーの名前にもなっていますか?
regulatory changes 制御の変化
gene duplication 遺伝子の倍体化(植物ではよく起こります。アブラナとダイコンなど)
“Although our findings point to a certain level of predictability in evolution, they also reveal a plurality of evolutionary
responses to a similar selective pressure, which demonstrates how adaptive evolution can leverage a combination of gene duplication, regulatory
changes, and protein evolution.”
predictability 予見可能性
evolution 進化
reveal 明らかにする
plurality 複数性、多様性 a plural noun 複数名刺
leverage テコのように使う 日本語訳では「活用する」で済ませるしかないときもあります。 lever れバー テコ
“The genetic basis of repeated adaptations can be further elucidated by considering contexts where diverse groups of species are faced with a common selective pressure, such as insect-host specialization; cryptic melanism; or environmental gradients in
oxygen, salinity, temperature, or acidity.”
adaptations 適応
be elucidated 解明される
face with common selective pressure 共通の淘汰圧に直面する
insect-host adaptation 昆虫とその宿主植物の適応
environmental gradients 環境による差異 くらいでしょうか。 gradient は「勾配」です
cryptic melanism cryptic は暗号のほかに、擬態する、という意味があります。 melanismは黒化、暗化で、industrial melanismで工業暗化、工場の近くで擬態するために昆虫が黒くなることです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E6%9A%97%E5%8C%96
salinity 塩分
acidity 酸性度
※事情があり、明日から今週いっぱい「今日の英語」を休みます。申し訳ありません。来週はこの続きから、昆虫の進化と本能についてしらべていきます。