ペルチエ効果と新材料開発

個人用の冷房器具と言えば首にかける扇風機で、私も買いました。本当に暑い時はダメですが、非力な冷房でも我慢できる範囲が広がった感じはあります。 首を冷やすタイプのペルチエ素子もあり、まだ買っていませんが、脳に行く血流を冷やすという意味では効果があるかもしれません。評価コメントもまあまあです。 https://www.amazon.co.jp/dp/B093WJDHYJ ただ、首は1つしかないので扇風機型とペルチエ型の両方をつけるわけにはいきません。合体したものもありますが、2万円以上の高額になります。 ペルチエ素子は熱を輸送するだけではなく電気抵抗による発熱(Joule heating)もしてし…

大赤班の色は硫黄の化合物

木星、土星、天王星、海王星はきれいな色をしていますが、何が色を作っているのでしょうか。 https://www.astronomy.com/observing/what-colors-are-the-planets-in-our-solar-system-and-why-are-they-so-different/ 木星の体積は地球の1300倍で、主成分は水素とヘリウムですが、ベージュ~赤色系の面白い色をしています。 水素は無色のはずなので色の原因は微量のアンモニア、アセチレン、水、硫黄等が作る雲の微粒子が原因だと考えられています。 詳しい説明は下記NASAのサイトが参考になります。 http…

三相界面

燃料電池の難しいところは、触媒原子の上で燃料供給・電子引き抜き・プロトン拡散の3つの過程が同時に起こる必要がある所です。それぞれ異なる物質(燃料、導電体、プロトン伝導体)の3つが同時に存在するので、「三相界面」と呼ばれています。大きさはナノメートルレベルで、これを高密度かつ制御して大面積に作りこまないといけないので、難易度は高いです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Triple_phase_boundary しかし、燃料効率や取り出せる電流密度が三相界面の作りこみで大きく変わるため、がんばる甲斐はあります。付加価値の高い技術だと言えるでしょう。メタノール燃料の燃料…

低温型燃料電池の固体電解質

低温型の燃料電池では、触媒で燃料からプロトンを作り、そのプロトンを酸素と反応させる触媒が載った電極まで輸送する必要があります。そこで必要となるのが固体電解質で、プロトンは溶かして輸送するが燃料やその酸化物は溶かさない物質が必要となります。また、大電流を取り出すにはプロトンの移動度(伝導度)を高くする必要があります。 水素ガス以外の燃料、例えば炭素を含むものを使う場合には必ずアルコール、アルデヒド、カルボン酸が生じ、それが対極まで拡散してしまうと効率が下がります。wikipediaによると、メタノール燃料の場合は理論効率が97%のところ、実際は30-40%しか得られないとのことで、おそらく燃料が…

燃料電池の触媒とその他の要素

ハクキンカイロは炭化水素(燃料)と酸素を白金触媒を用いて低温でゆっくり反応させ、化学反応のエネルギーを熱として取り出しています。 しかし、燃料電池にしようとするとずっと複雑な構造が必要になります。 (1) 燃料→燃料由来の陽イオン(プロトンとCO2まで分解されることが多い) + 電子(導電体で外部回路に取り出す)    例えば、メタノールの場合は CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ +e- (2) 酸素+プロトン(等) +電子(外部回路から) → 水 の反応が必要です。 燃料が水素ガスの場合はH2Oだけしか出ません。燃料としては様々なものがあり、糖類(組成式 CH2O)も可能です。…

世界の研究所:ハクキンカイロ

今週は低温型の燃料電池について調べたいと思います。最初の燃料電池は、英国のSir William Robert Groveが1842年(天保13年)に発明しています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Fuel_cell それから実用的には顧みられなかったようですが、約100年後の1932年にケンブリッジ大学の技術職員のFransis Thomas Baconが実用化しました(Bacon cell)。この人は哲学者のFransis Baconの一族です。さらにさかのぼって哲学者Roger Bacon(1214-94)の子孫の可能性もあるそうです。 https://en…

RFIDの組み立て装置、銅ナノ粒子インク

RFIDはアンテナとmmサイズのシリコンチップからできています。組み立ての装置が下記です。 https://www.youtube.com/watch?v=_yKJprfFafk シリコンチップを切り出す装置(dicer)は日本が得意です。 https://www.youtube.com/watch?v=ScVRmpDgmTU アンテナは蒸着したアルミをエッチング(アルミはリン酸によく溶けます)して作ります。プラスチックフィルムにアルミを蒸着するのはポテトチップの袋に使われている枯れた技術です。 下記は、銅のインクジェットプリンタで作ろうとしています。試作にはいいと思いますが、量産には時間がか…

糖尿病治療薬がやせ薬に使われる理由

今週紹介している糖尿病薬がやせ薬に使われる理由は、脳の食欲中枢を抑制して食欲を無くさせる機構と、消化を遅らせる機構の2つがあるそうです。どちらも分子レベルの機構はまだわからないことがあるようです。 https://www.harpersbazaar.com/jp/beauty/health-food/a42032532/ozempic-weight-loss-230101-lift3/ ポリペプチドを経口投与できる(消化されない)ようにするのはどうしているのか調べました。強酸性の胃液で加水分解するのが問題なので、制酸剤でくるむという簡単なしくみでした。 https://www.ncbi.nlm…

ニッケルの用途:鉄系合金、銅と金を隔てるための下地メッキ、電池

ニッケルの用途は触媒のほかに、ステンレスなどの鉄系合金、電子部品や回路のメッキ、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などがあります。鉄系合金では鉄の焼き入れ焼きなましに関係する結晶構造変化(fccとbcc)の制御と表面不働態膜の安定性のため添加されます。ニッケルを入れると一般に耐食性が増しますが、それはニッケルが周期表の10属で鉄よりも価電子が多いことに関係があります。 https://www.rsc.org/periodic-table/element/28/nickel 電子回路のメッキについては、耐摩耗性と、金メッキの下地としての用途です。銅の上に直接金メッキをすると、銅と金は安定な…

ラネーニッケル

独断ですが、ニッケルといえば水素添加触媒であるラネーニッケルが印象的です。これは1926年にアメリカの会社の技術者Murray Raneyさん(41才)がアルミとニッケルの1:1合金からアルミをNaOHaqで溶かしだすことによってつくった多孔質体のニッケルで、低温で高い活性を持つことが知られています。Raney(R)というのは彼が務めていた会社が商標化してまだ使っています。もうすぐ100周年ですね。 https://en.wikipedia.org/wiki/Murray_Raney アイデアが湧いたので試してみたら一発でうまくいった、とのことです。こういうこともあるので、研究は面白いです。多…