魚が音の方向を知るしくみ

Charité (ベルリン医科大学病院)は教育機関でもあるので、医学と直接関係ない研究者もいるようです。プレスリリースに、魚の聴覚の仕組みについての論文を紹介するものがありました。 https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/how_fish_can_hear_in_stereo 論文はnatureにでています。 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07507-9 人間の場合は右耳と左耳の信号の時間差により音源の方向を認識します。空気中の音速は340m/sなのに対…

患者から切除した組織を使った脳科学実験

ベルリン医科大学はRobert Kochという細菌学の創始者がいたので感染症の記事が多いのかなと思っていましたが、脳科学や遺伝子治療のプレスリリースが多いのは、これらの分野に新しいことが多いためでしょう。今日は独特の実験による脳科学です。 (1) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/why_deep_sleep_is_helpful_for_memory (2) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/when_thou…

Wait, wait. Wait. That’s an aha moment I can flag here.

DeepSeekやOpenAIのような大規模言語モデル(large language model; LLM)を使った生成AIは、少なくともスマホの登場と同じくらいのインパクトを与えると予想しています。私のような日曜プログラマとしても面白そうな題材がいくらでもあります。 DeepSeekの話題の論文は下記です。 https://github.com/deepseek-ai/DeepSeek-R1/blob/main/DeepSeek_R1.pdf わかりやすい解説が下記です。 https://zenn.dev/asap/articles/34237ad87f8511 私はコンピュータ学者と一緒に…

アハの瞬間

DeepSeekの技術にはいくつかポイントがありますが、AIにおける”aha moment”の観察を多くの人が取り上げています。DeepSeekの論文は、このような現象を最初に報告したものになるのではないかと思います。特に”aha moment”を学習に使ったわけではなく、学習後のAIの動作です。 ”aha moment” は「なるほど、わかった!」ということで、アルキメデスにちなんで”Eureka effect”という別名もあるようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Eurek…

DeepSeekのファイルサイズ

DeepSeekをオンラインで使おうとすると中国のサーバーにつながるので警戒されていますが、すべてダウンロードして自分のパソコンで使うこともできるそうです。 これがopen sourceのいいところですね。下記にやり方が書いてあります。14.8Bとか7.6Bとかは学習済みのパラメータの数(billion=10億単位)だと思われます。ファイルサイズは数十GBだそうです。 https://zenn.dev/serada/articles/20250130-deepseek-r1-ollama 去年のノーベル賞のタンパク質結晶構造の予測(AlphaFold)は2TB以上なので、だいぶ小さいです。タン…

脳オルガノイド研究の倫理

IPS細胞技術が扉を開いた分野の一つとして、organoid(日本語ではオルガノイド、英語は「オ」ーガノイド)があります。これは、ヒトの普通の細胞をリセットすることで胚細胞をつくり、目的の臓器への分化を促す分子を投与しながら培養することで、小さい臓器をつくるものです。 https://ruo.mbl.co.jp/organoid/overview/ 病気の原因の解明や新薬の効き方を見る実験などをヒトの臓器の生きた組織を使ってできるので非常に有効です。問題は、脳のオルガノイドを作る場合の倫理をどうするか、です。私の倫理観では、脳のオルガノイドはかなり「たましい」を持っている気がするので、あまりい…

「quantum battery」

結局どの雑誌の特集号を見ていたのか分からなくなってしまいましたが、調べていたらちょっと面白い理論研究を見つけました。”quantum battery”で、少しだけ流行っているようです。 https://doi.org/10.1038/s41534-025-00959-5 普通の化学電池は酸化状態と還元状態の間のエネルギーの差としてエネルギーを蓄えます。原子や分子1個以上の量子力学的な相関はありません。量子力学的につながっている系では蓄えたエネルギーよりも多くのエネルギーを取り出すことができる、という、熱力学の法則に反していそうな話が2013年ころに提案され、それから研究が始まっています。 ht…

量子もつれの初期の実験

どれを見ていたか忘れてしまった特集号ですが、これだったかな?という論文を取り上げてみましょう。 https://www.frontiersin.org/journals/quantum-science-and-technology/articles/10.3389/frqst.2024.1451239/full 孤立原子と光の相互作用から量子もつれをつくる最初期(1967年ころ)の実験を本人が解説しています。水素放電管を自作して光源にしたり、カルシウムを加熱して細いノズルから原子ビームを飛び出させたりした手作り装置で、励起状態から二段階で発光しながら落ちてくるときに発する2つの光子の偏光状態が…

米国の高校での量子力学課外授業

年度末でちょっとバタバタしていて、「量子力学100周年」どの雑誌の特集を見ていたのか忘れてしまいました。とりあえず無料で読める高校教師向けのAmerican Journal of Physicsの下記を見ましょう。 https://pubs.aip.org/aapt/ajp/article/93/1/88/3327088/Quantum-information-science-and-technology-high 20時間の授業+5時間のグループ発表準備=25時間の課外活動で、以下を行うというプログラムの報告です。10-12年生というので、高校1~3年ということでしょうか。ニューヨーク市で、…

世界の研究所:Werner Heisenberg Institute (Max Plank Societyの物理学研究所の別名)

今年は Werner Heisenberg が「行列力学」(シュレディンガー方程式と同等)を発明した1925年から100周年なので、雑誌でいくつか特集が組まれています。来年のシュレディンガー方程式100周年のほうが派手なイベントがあるかもしれません。量子力学の正しい計算法がわかったという意味では重要で、国連は今年を量子技術の記念の年にしているようです。今週は、American Institute of Physicsの100周年特集号から話題を拾っていこうと思います。 研究所としてはWerner Heisenbergが正式名称の研究所はないですが、ドイツの国立研究所であるMax Plank S…