世界の研究所:Caltech Chen NeuroScience Research Center, USA

ゴールデンウィークなので少し休みがちになります。今週と来週を使って、まだとりあげたことがなかったDNA origamiの話をしましょう。 先週出版された論文で、すい臓がんの細胞をDNA origami複合体で光らせて検出する方法を開発したというのがありました。 https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202410278 がん細胞は外科治療の場合には残さず切除する必要があり、飛び地を見落とさないように、手術中にがん細胞だけ光って見えるようにする方法がいろいろ開発されています。そこにDNA origamiを使うという話です…

ジルコニウムの核工学用途

X-energy社のコンテナサイズの原子力発電所の燃料交換はどうするのか気になりました。3年から60年で交換だそうです。原子炉自体の寿命もあるので、60年の場合は工場に全部持ち帰ってメンテナンスと燃料交換をするのが楽かもしれません。 通常の原子炉は1~3年毎に一部を交換するようです。古い燃料棒の取り出しと交換は放射能のため人力ではできず、機械式のクレーンを使うのだと思います。 通常の原子炉の核燃料はジルコニウム合金で被覆されています。ジルコニウムは中性子の吸収が少ないため核反応を妨げないことのほかに、放射化(中性子を吸って質量数が1多い他の原子核に変化し、それが放射能を示す)をしにくいのではな…

ウランガラス、ラジウムガール

ウランは地殻中の存在順位が元素中で53位で、4ppmもあるそうです。白金族(Pt, Ir, Os)は0.001~0.01ppmしかないそうなので、ずっと豊富です。 http://www.aesj.or.jp/~recycle/nfctxt/nfctxt_2-1.pdf ウラン鉱石も高純度のものがあり、閃ウラン鉱(ピッチブレンド、UO2)など多数あります。日本の人形峠で発見された「人形石(にんぎょうせき)」((U,Ca,Ce)2(PO4)2・1~2H2O)という鉱石もあります。そのためか、古くからガラスに1%程度入れて熱膨張率を調節したり黄色い色を付けたりするのに使われました。紫外線が使えるよう…

核燃料と臨界、ウランの同位体濃縮法

昨日のTRISO-X核燃料(私が「たどん」と呼んでいるもの)は空気冷却でメルトダウンはしないとのことなので、核分裂するウラン235の濃度が低いのでしょう。ウラン235の核分裂はちょっと変わっていて、低速中性子(熱中性子)が原子核にぶつかることによって起こります。その際に、高速の中性子が飛び出しそれは反応を引き起こさないので、ウランだけでは核分裂はゆっくりとしか起こりませんが、減速材と呼ばれる中性子の速度を落とす物質を突き抜けるように配置しておくと高速中性子が低速中性子に変わり核分裂がつぎつぎに起ります。これが核分裂連鎖反応(nuclear fission chain reaction)で、連鎖…

世界の研究所: X-energy社

トランプ関税で経済指標が乱高下していますが、原油価格もその一つです。中期的には関税で不景気がくること、脱炭素の動きが逆回転することからエネルギー価格は下がるのではないかと予想されていますが、短期的にはガソリンの価格が上がったりしています。先週は米国のDow Chemicalの工場敷地内に小型原子力発電所を建設するための認可を米政府に申請したというニュースが入ってきました。以前紹介したヘリウムを700℃に加熱する高温ガス炉で、「たどん」型の燃料を使って空冷で動かせるような原子炉です。作っているのはベンチャー企業のX-energy社です。”X”とつくのでElon Musk氏が絡んでいるのではないか…

羊皮紙の作り方と最新型iPadの書き味

今日は羊皮紙の作り方です。昨日のサイトに詳しい情報がありました。 https://youhishi.com/manufacture 動物の皮を石灰水に漬け込んで脂肪や溶けやすいタンパク質を除去します。これはアルカリ性であることを使っているのでしょう。 それから物理的に引き延ばしてから特殊な刃物で不要物(毛や油など)をそぎ落とします。さらに石灰水処理を繰り返すので3週間かかるそうです。羊1頭からとれる量はA4で4~6枚とのことで、高価なのがわかります。上記サイトのショップではA4の大きさ1枚で3000~5000円です。 文化財の紙と羊皮紙を比較した電子顕微鏡写真が載っている論文(?)がありました…

パピルスの製法とCFRP(炭素繊維強化樹脂)

結局のところ月曜日に紹介した15世紀の文献は、歴史ファンタジー小説が書いてあったものと言ってよいでしょう。昔の手紙、絵巻や歴史的遺物を見るのは、本当に歴史で習った人物がいたのだ、という感動を生みます。が、現代の漫画や小説の莫大な生産量、さらにAIが人間の心を揺すぶるお話をいくらでも作れるようになると考えると、15世紀のマーリンの物語の失われた章を調べる意義というのはかすんでしまうかも(?)・・・と言うと絶対に怒られるでしょうね。 さて、この文献は羊皮紙に書いてあったものですが、まず羊皮紙屋さんが解説しているパピルスの作り方を見ましょう。実際に作っていて素晴らしいです。 https://youh…

レーザーによる原子核励起の実験には3年かかった

レーザーによる原子核の励起については最近精密な実験が行われるようになっています。 https://newsroom.ucla.edu/releases/nuclear-spectroscopy-breakthrough-could-rewrite-fundamental-constants-of-nature https://www.youtube.com/watch?v=km3orSzbqHo 論文本文は所属機関または個人が購読しないと読めません。 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.013201 トリウ…

レーザーと放射性物質に関する研究の方向

レーザーと放射性物質に関する研究は、下記解説にあるように2つの方向があります。 https://www.polytechnique-insights.com/en/columns/science/cleaning-up-nuclear-waste-with-super-powered-lasers/  一つは、加速器(蓄積リング)のGeVエネルギーの電子に強いパルスレーザーを当ててガンマ線を発生させ、重い原子核にあてて中性子をはじき出す核反応を起こして原子核変換を狙うものです。これは昔からの夢である錬金術と言えるでしょう。エネルギーが潤沢に使えるようになった暁には半減期が長い原子炉廃棄物などの…

レーザーによる遠隔放射能検出のしくみ

昨日紹介したニュースの元の論文は下記ですが、購読していないと読むことができません。 https://journals.aps.org/prapplied/pdf/10.1103/PhysRevApplied.23.034004 空気中のO2に放射能由来の電子がくっついてO2-(陰イオン)となり、それがCO2レーザーの強い電場で電子を放出し、その電子が加速されて中性分子に衝突することにより周りをイオン化して雪崩的にmicroplasmaを作り、光を散乱するという仕組みです。9.2μmのCO2レーザーの光では光子のエネルギーが低いため、N2,O2,H2Oなど空気中の通常の分子から電子をはぎ取ること…