氷はどうしてすべりやすいか

北国で摩擦といえば、凍結した地面での靴底やタイヤのスリップ防止です。氷がどうしてすべりやすいか、というのは現在でも研究が行われています。 関与する要因は3つと言われていて、(1)摩擦熱によって水が解けて潤滑する (2)圧力で水が解けて潤滑する (3)表面1nm程度は融点が下がっていて、もともと解けた特殊な水の層(premelting layer)がある です。圧力をかけると溶ける、というのは水の特殊性です。水分子は水素結合でお互い四面体的につながったネットワークをつくっています。H-O-HのOに水素結合で隣の分子のHが2つくっついています。四面体ネットワークは隙間が多いので、圧力をかけるとネッ…

超潤滑

現代ではナノスケールで物質を制御することができるようになったので、摩擦についても面白いことが実現するようになっています。 昨日のAmonton-Coulombの法則の原因は、2つの物質が接触するときに摩擦は起こり、拡大して見ると凸凹の表面の山同士が擦りあうときにくっついて引きはがすときに力が必要なのが摩擦力の源泉であるということでした。 完全に平らな表面が2つ接触したとして、その間に働く力は何でしょうか?ファンデルワールス力、クーロン力、金属結合力、共有結合力などいろいろありますが、平行に動かすときに働く力はクーロン力と共有結合力が大きいです。それ以外は、平行に動いてもエネルギーがほとんど変わ…

Amonton-Coulombの摩擦の法則

摩擦力が垂直抗力に比例する、というのはAmonton-Coulombの法則と言います。Coulombは電荷のクーロンの法則の発見者ですが、摩擦の法則も彼が定式化しています。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%91%A9%E6%93%A6 静止摩擦係数と動摩擦係数が異なることは流体力学や数学で有名なEuler (オイラー)が理論的考察から見つけました。 なぜそうなるか、というのがトライボロジーでは重要な話です。 (1)微小な凸凹(昨日英単語として紹介したasperity)の先端部だけが接触して摩擦を生んでいて、圧力が増えると接触面積が比例して増える。 (2)摩擦…

世界の研究所 機械系の学会IMechE, IOM3 とトライボロジー

トライボロジーという学問体系があります。摩擦や潤滑を扱う学問で、実用上たいへん重要です。今週末、一般向けの講義をしないといけないので例によって付け焼刃の勉強をしています。摩擦において、分子原子レベルで何が起こるのか、例えば高分子なら分子がちぎれるのか、潤滑剤がダメになるときは何が起こるのか、マッチを擦って火がつくのは摩擦熱の効果だけか、など化学的にも面白い話題がありそうです。 わかりやすい歴史のまとめを見つけました。 https://www.machinerylubrication.com/Read/32382/comprehensive-exploration-of-tribology この…

Intel4004からMead-ConwayのVLSI教育革命へ

半導体エンジニアを養成する教育で我々に求められている仕事は、下記の有名な教科書のようなものを作ることかもしれません。 https://en.wikipedia.org/wiki/Mead%E2%80%93Conway_VLSI_chip_design_revolution 昨日のyoutuberが解説を出しています。これは集積回路の歴史を知りたい人は絶対見たほうがいいです。 https://www.youtube.com/watch?v=XgbxFVyKMMo Carver Mead はCaltechの教授で、Lynn ConwayはXeroxのVLSIプロジェクトリーダーでした。 最初のCP…

半導体設計支援ソフトの解説

半導体設計支援ソフト(EDA)いろいろ情報をあさっていたらyoutubeにわかりやすい解説がありました。 (1) https://www.youtube.com/watch?v=ihz2WY-E2C8 (2) https://www.youtube.com/watch?v=OmEbzRp_NGg (1)はEDAの歴史を語っています。電子回路シミュレータSPICEはUCバークレーの電子工学の研究室が作ったものですが、現在はAnalog Devices社がLTSPICEを無料頒布しています。使いこなせると楽ですが、実用上はトランジスタを組み合わせて回路を作ることはなく、色々な集積回路を使います。い…

半導体設計支援ソフトウェア Electonic Design Automation 

EDA(Electronic Design Automation)には広義では流体力学や化学反応を扱うものから電子回路設計、プリント基板などもありますが、この業界では微細な半導体集積回路のリソグラフィパターンの設計を指し、金額としても大きいと思います。先日発表のルネサスが8900億円で買収したのは回路設計~プリント基板のところのEDAの会社Altriumで、年商は$263Mでした(買収価格はその22倍、これが高いか安いかは面白い問題です)。 半導体微細加工設計のSynopsis社の年商は$58Bなので、Altrium社の約200倍と巨大です。上流か下流を抑えている会社が、目障りな他社をつぶすた…

世界の研究所:半導体設計オープンソース Google-Skywarker130

半導体技術者を養成するための教育を考える仕事が降ってきました。電子工学の先生方に教わりながら調べていると、EDA(electronic design automation)という一群のシステムがあり、数社がしのぎを削っている中でオープンソースが存在することを知りました。日本の大学にはEDAの専門家がほとんどいないそうです。 今週はこれについて勉強がてら解説することにします。オープンソースはGoogleがバックアップしています。ただし現在3nmプロセスが最先端ですが、オープンソースでは130nmまでしかサポートされていません。教育用ならばこれで十分か?というところを考えることになります。 最先端…

脳のハードウェアにおける感情の相関

最新というには少し古いですが、下記の論文が2019年に出ています。無料で読めます。 https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aaw4358 fMRIと畳み込みニューラルネットワークを使って、人の感情を外から読み取る装置を作ったというものです。一種のテレパシーの装置ですね。 これは11~20種類の感情を扱っています。感情と紐づけされた25000個の画像と動画を見せて、教師ありで訓練して8層のニューラルネットワーク(名前はEmonet)を作ったら画像から誘起される感情を当てられるようになったとのこと。 このニューラルネットワークを使って、感情を誘起する…

多言語データベースの中身

昨日の感情の言語学的な分析に使われたデータベース”CLICS3”について少し見てみましょう。 https://clics.clld.org/ 中身を解説した論文は下記です。これは誰でも読めるopen access出版です。2020年ですから古い話ではありません。 https://www.nature.com/articles/s41597-019-0341-x 30個のデータベースを合体させたもので、1973年のものが一番古いです。 形式は単純で、下記は1016個の単語を英語、ドイツ語、ロシア語で記してあるだけです。 https://concepticon.clld.o…