EDA(Electronic Design Automation)には広義では流体力学や化学反応を扱うものから電子回路設計、プリント基板などもありますが、この業界では微細な半導体集積回路のリソグラフィパターンの設計を指し、金額としても大きいと思います。先日発表のルネサスが8900億円で買収したのは回路設計~プリント基板のところのEDAの会社Altriumで、年商は$263Mでした(買収価格はその22倍、これが高いか安いかは面白い問題です)。
半導体微細加工設計のSynopsis社の年商は$58Bなので、Altrium社の約200倍と巨大です。上流か下流を抑えている会社が、目障りな他社をつぶすために仕掛けるのがオープンソース化の大きな動機になっているという一般則は私が講義で話しているところです。半導体微細加工設計ソフトも例外ではなく、GoogleがGoogle Hardware Toolchains teamというのを作ってオープンソース化を狙っています。参加するエンジニアは2022年の段階で3000人だそうです。
https://opensource.googleblog.com/2022/05/Build%20Open%20Silicon%20with%20Google.html
いろいろ特許もあると思うのでそう簡単にいくとは思えないです。GoogleはSynopsisと共同でCloud設計環境を作ったりもしています。握手しながらテーブルの下で蹴りあいをしているような感じです。Google Colaboaratoryを使うと、最近ではCPU, GPUのほかに深層学習に特化した独自のハードウェアTPUを選べるようになっていて、Googleがハードウェア設計もできることがわかります。
初心者向けチュートリアルが充実しています。これを実習に使えばいいかも知れません。
https://developers.google.com/silicon/notebooks?hl=ja
まだマニュアルを読んでいる段階ですが、ハードウェア記述言語verilogを使って論理合成(トランジスタの回路図まで)をしてから実際のシリコンの加工すべき構造を自動で作るようです。さらにマスクパターンなどを出力するのでしょうか。
https://openlane.readthedocs.io/en/latest/reference/configuration.html
このopensourceで130nmノードまではできるがそれ以下はまだできていない、というのはそこでシリコンで作る構造に革新があったかということなのか?と想像します。使えない知財があるのかもしれません。ちょうどこのあたりから先で日本の半導体産業が凋落したというのが私の認識です。
英語は https://www.skywatertechnology.com/google-partners-with-skywater-and-efabless-to-enable-open-source-manufacturing-of-custom-asics/ から。
ASIC エーシック はカスタム半導体論理回路IC。消費電力が低いので、量産品はこれにしたいが、製造にお金がかかるので、プログラミングで回路を切り替えられるFPGA(エフピージーエー)で動作を検証してからASICにする(私の理解です)。
※大規模に集積したカスタム高性能品を短納期で安く作るところにビジネスがあるのではないか、というのが日本の半導体復活のシナリオの一つと言われています。何を作ったらいいか、生産してビジネスになる用途を考える人も必要です。携帯電話の機能はだいたい出来上がっているので、次は3D空間の再構築(facebook=METAがやろうとしたこと)が一つあるでしょう。我々の仕事でも原子モデルを手でいじれるようになるとよさそうです。3Dと言えばAppleが50万円の高いゴーグルを出しましたが、もっと薄くしたいです。ディスプレイの素材と方式の革新が待たれます。私もいろいろ考えていますが、まだ答が出ません。
https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/
“In support of the shuttle program, Efabless has released a complete Apache 2.0-licensed open source RTL2GDS design stack, referred to as openLANE, that supports the SKY130 PDK and is available to designers worldwide.”
世界のだれでも良い設計を提出すれば、カスタムICをただで作ってくれるサービスを立ち上げたようです。”openLANE”というのが上で紹介したチュートリアルで使っている自動設計エンジンですね。
“This offering has implications for accelerating innovation in the 130 nm mixed-signal SoC node popular for IoT type applications by removing barriers and obstacles relating to experimentation and collaboration for IC design. The model and its innovative outcomes are extensible to advanced nodes over time.”
mixed-signal デジタルとアナログが混じった
SoC: system on chip 半導体チップだけで電子回路が完成しているもの。
offering 提供すること 「この申し出は・・・・」
has implications 「~という意味もある」 直接対応する名詞は日本語にはないように思います。
extensible to advanced nodes over time 時間がたてば(130nmよりももっと微細な)進んだノードに拡張できる