61番元素Pmの錯体が今年初めて作られていました。追加で60Coとガンマナイフの話。

ベータ崩壊を電力に変えるbetavoltaicに使われる同位体に147Pmがあります。Pmはプロメチウムで、安定同位体がない元素です。147Pmの半減期は2.6年で、あまり長くありません。寿命が短いと原子数当たりの崩壊速度が速く(毎秒の崩壊数であるベクレル(Bq)が大きい)、量が少なくて動作するので超小型化に向いています。しかし短寿命なら化学電池で十分ですね。いろいろ調べていたら、今年になってプロメチウムの錯体が初めて作られたという論文がNatureに出ていました。これは無料で読めます。米国Oak Ridge National Laboratoryの研究です。 https://www.natu…

ベータ線を電力に変えるしくみ

17keVのβ線を電力に変えるにはどうするのでしょうか?太陽電池と似た機構を使います。半導体に高エネルギー粒子が当たると化学結合を作っている価電子が多数弾き飛ばされ、最終的には電子・正孔対が多数生じます。ただの半導体だと、電子と正孔が再結合して光や熱を出して終わりですが、半導体にpn接合などが作ってあって内部電界が存在すると電子と正孔が反対方向に進み分離されます。そこに金属電極を付けておけば、電子と正孔が電極に現れ、起電力が生じ、負荷回路がつながっていれば電流が流れます。起電力の最大値は半導体のバンドギャップになります。太陽電池のような可視光の場合は光子1個に対して電子正孔対は1対(紫外線をナ…

63Niを使った原子力電池

昨日の記事で「眉唾」と書いてあった63Ni原子力電池についてみてみましょう。63Niは62Ni(安定同位体)に中性子を照射するとできるそうです。β崩壊で電子を出して63Cu(安定同位体、天然の銅の60%を占める)に変わるので、壊変後は安定です。ベータ線(電子)のエネルギーも平均17keV、最高66keVなので低エネルギーの部類に入ります。反射高速電子線回折(RHEED)のエネルギーが20keVなので、それを超小型(物質のみ)で作れるのは魅力的で、ガスクロマトグラフィ、帯電防止装置、遮蔽能力を測定する厚さ計などに使われています。密封線源の場合は管理が緩いですが、紛失すると届け出が必要です。壊れて…

世界の研究所: 英国 Cabot Institute for the Environment @ Univ. Bristol

先週は原子力電池に関するニュースをいくつか見ました。1つは英国University of BristolのCabot Institute for the Environment による14Cダイヤモンド電池、もう一つは中国の会社(Betavolt社)の63Ni電池です。後者は今年はじめの発表のようで、14Cの記事をみたら勝手に「おすすめ」されたのではないかと思います。 https://www.bristol.ac.uk/cabot/what-we-do/diamond-batteries/ https://insideevs.com/news/704871/china-betavolt-ato…

ナノスケールの金属3Dプリンティング

市販されている金属の3Dプリンティングは昨日までに説明したように微粉末をレーザー加熱で融かしてくっつけるものでした。加工寸法はレーザーのスポット径で決まり、0.1mm程度です。それを2~3桁縮める方法が今年の8月に発表されました。無料で読めるのが下記です。 https://www.nature.com/articles/s41563-024-02031-7 https://www.instrument.com.cn/news/20240822/737574.shtml フェムト秒レーザーを使います。レーザーを圧縮して短いパルスにしているため1パルス当たりの光が強いので励起状態がさらに励起される…

金属用3Dプリンタのレーザー波長

金属用3Dプリンターはレーザーで金属粉を融かしてくっつけています。動画を見ると、火花があがっています。 https://www.youtube.com/watch?v=8L6ac1fdgWU 窒素またはAr雰囲気で金属が燃えるはずはないのに火花が上がっているのは不思議ですね。何が起こっているのでしょうか? これはおそらくレーザーで加熱された微粒子が熱膨張でお互いにはじきあって一部が飛び出しているのでしょう(spattering)。色からすると飛び出した粒子の温度は1000℃は超えていると思います。その分の量が減るのを考慮する必要があるでしょう。下に形成されたものがあるか、粉のままかによって飛び…

金属用3Dプリンタ―の仕組み

金属を3Dプリンターで印刷するには、粉体をレーザーで加熱します。下記が文章での説明です。 https://www.hubs.com/knowledge-base/introduction-metal-3d-printing/ レーザーのほかにも電子ビーム(真空中)、超音波などが使われることがあるそうですが実用機では主にレーザーです。 大気中ではなくアルゴン中で製造を行うことで金属粉の酸化を防ぎます。全体を適切な温度で加熱することによりレーザー照射により融点または焼結温度を超えるようにします。金属粉を薄く一様にひき、レーザーを照射します。レーザー可動鏡などでスキャンしますが、レンズで焦点を結ばせ…

世界の研究所:スウェーデン Höganäs AB

全然関係ないですが、数日前からのシリアの内戦激化とウクライナ停戦交渉がつながっている、という説を聞いて、思わず膝を打ちました。計略ならば兵法(囲魏救趙+借刀殺人の計?)に出てくるような手際(てぎわ)ですが、本当でしょうか。いずれにしても早く平和が来ることを祈ります。 https://www.npr.org/2024/11/30/g-s1-36285/how-a-syrian-rebel-group-pulled-off-its-stunning-seizure-of-aleppo https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B2%E9%AD%8F%E6%95%91…

落葉のときのマンガン回収に使う輸送分子はわかっていない

落葉の前の金属元素回収の例としてマンガンを見てみましょう。マンガンは、地殻中の元素としてはクラーク数12位で、存在比900ppmと比較的多いですが、欠乏することがあります。 https://minorasu.basf.co.jp/80107 にあるように、欠乏すると葉緑体が作れなくなります。 Mnは、水を分解(water splitting、H2O→ 1/2 O2 + 2H+ + 2e-)して酸素を作る酵素(Photosystem II,別名water-plastoquinone oxidoreductase) に不可欠です。 Mn4CaO5クラスターとして入っているそうです。構造は下記が参考…

落葉とオーキシン

落葉について調べていて最初に出てきたのがシカゴの造園会社のブログです。 https://digrightin.com/blog/why-leaves-do-and-dont-fall-from-trees/ それによると、秋になって葉緑体が減る→葉で作られるauxinが減る→葉柄の付け根に流れてくるauxinが減る→植物ホルモンであるエチレン(C2H2)への感受性が高まる→付け根の細胞が変化→切れて落葉 だそうです。紅葉については、葉緑体が減るとともに赤い色素ができているはずですがそれについては書いてありません。 auxin(オーキシン)は植物の成熟に関係した植物ホルモンで、天然には5つの分子…