124光年離れた惑星K18-2bにジメチルスルフィドが存在しているという結果のスペクトルは下記です。
https://www.nasa.gov/wp-content/uploads/2023/09/sep-11-23-stsci-01h9rf4t1ems9mpnxfmm99n18f-2k.jpg
データ点が白の丸に縦棒です。これが青い曲線であろうと推測しています。直感的には「本当かな??」というところですが、おそらくベイズ統計を使ったフィッティングで出てくるのでしょう。S/Nを高める必要がありますが、光の量が非常に少ないので限界があります。どのくらいの光子数か、計算してみましょう。
母星K18-2についてのデータは下記にありました。このサイトは恒星の詳細が載っていて面白そうです。
https://www.stellarcatalog.com/stars/k2-18
太陽の大きさ(直径)の40%=13927000.4=5.6 E8m で、表面温度は3464Kだそうです。これに黒体輻射のPlankの式を当てはめます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
I’(λ,T)=(2hc^2/λ^5)/(exp(hc/λkT)-1) [J s-1 m-2 sr-1 m-1]です。
立体角(srステラジアン)あたり、Δλあたり、1秒当たり、表面積あたりのエネルギーです。λは3μm=3E-6m, Δλはデータ点の間隔が0.1μmくらいなので、1E-7 mとします。
立体角は、視野角 1.7×10^-9 度の約2乗をラジアンで計算すればよくて9E-22 sr
表面積は4πr^2=π(5.6E8)^2=9.9E17 m2
上記の値を代入すると I’=14 J s-1 となります。これはあまりにも大きいのでどこか間違っています。
よく考えると、表面積というのに星の表面積を考えるのは間違っていて、受光器が星の大きさになってしまいます。表面積を変えるか、立体角を受光器に合わせた値にするかになりますが、値は同じになります。実際の受光器は、せいぜい1m角として、1m2を使うと、
I’=1.5E-17 J s-1です。
3μmの光子1個のエネルギーは hν=hc/λ= 6.6E-20 J なので、
1秒当たりの光子数は I’/hν = 224 個 です。これでも思ったより多いですね。よく見ると、縦軸が”amount of light blocked”で0.28%から0.31%の間をグラフにしています。母星の方が惑星大気層よりもずっと大きいのと、ジメチルスルフィドの濃度が薄いのでしょう。とんでもなく精密な測定です。エラーバーが0.01%くらいあります。カウント数Nの平方根がエラーバーだとするのが定石で、これを使うと、ΔN/N=√N/N=N^(-1/2)=0.01%=1E-4を解いて、N=1E8になります。秒あたり224カウントで1億カウント貯めようと思うと450000秒=5日になります。これは貴重な宇宙望遠鏡の測定時間としては妥当だと思います。検出器が1mくらいの大きさという推測がそんなに外れていないということでしょう。
英語は、 stellarcatalog.comで紹介されていた https://arxiv.org/abs/2504.13039 から。
stellar 恒星
JWST ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
“for which two different interpretations, a high-metallicity miscible envelope and a lower metallicity hycean world, are currently in conflict. Aims: Here, we reanalyze the published data and reproduce previously retrieved molecular abundances based on an independent data reduction and a different retrieval framework.”
miscible ミスィブル 混じることができる
retrieve 取得する
framework 枠組み
molecular abundances 分子の豊富さ
”Methods: We reduce one JWST NIRSpec G395H and one NIRISS SOSS GR700XD transit dataset using the Eureka! pipeline and a custom MCMC-based light curve fitting algorithm at the instruments’ native resolutions.”
transit 飛行機の乗り継ぎ、移動中の くらいでしょうか。過渡的だとtransientなので違います。
Eureka! はアルキメデスの「わかったぞ!」ですが、宇宙探査機やプログラムなどいろいろな名前になっています。
MCMC Markov-chain Monte Carlo 取り扱えないくらい多くのデータ点から確率的にデータを拾っていって近似計算をする手法。講義で説明しています。エムシーエムシーと読むことが多いと思います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%95%E9%80%A3%E9%8E%96%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AD%E6%B3%95