江戸時代に興味があり、時間があると調べているのですが、ふと、無料で診療を受けられる小石川養生所はなぜパンクしなかったのかが気になりました。今週は各国の類似の施設および福祉政策の歴史について調べてみたいと思います。
小石川養生所は私が子供の時に祖母の家で見ていた時代劇(大岡越前)によく出てきました。8代将軍徳川吉宗の享保の改革で「目安箱」を作りましたが、そこに町医者・小川笙船の投書があり、そのうちの1つの提案として貧民用の無料病院がありました。提案は19条あったそうですが、他は記録に残っていません。南町奉行の大岡越前守忠相が担当となり、幕府の薬草研究施設であった小石川御薬園の一角に小川笙船を病院長(肝煎)として作られたという経緯です(1722年)。最大時には約150床の入院が可能な病院になりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B7%9D%E7%AC%99%E8%88%B9
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%B2%A1%E5%BF%A0%E7%9B%B8
現在は植物園になっています。いいところです。
1722年には江戸の町方人口は50万人を超えていました。治療費や食費が無料の病院には人が殺到するのではないか?というのは自然な疑問だと思います。昔の人は誇り高くて自力救済を試みたのかな、と思いましたが違っていました。
https://www.edo.net/edo/edotx/ituwa/03.html
「なぜパンクしなかったか?」の答は下記の本でよくわかりました。この本は早稲田大学の卒業論文を後で本にしたものだそうです。とてもレベルの高い卒論です。
・「其の日稼ぎの者(財産のない労働者、30万人いたそうです)」「助けられる身寄りがない」という条件。
・最初は薬草研究の実験台になるという噂で集まらなかった。また、初期は手続きが病人→近所の保証人→町内を管轄する名主(全部で262人)→町奉行所と煩雑でハードルがあった。
・後年は江戸の町会所(商人による自治組織)の福祉政策(七分積金:民間の税金の余剰金の70%を災害・飢饉・窮民対策に貯蓄していた)により食糧や薬の支給で救済された。また、別に幕府の「医学館」という役人専用の医者の学校に病院が併設され、研修医が無料で診察した。
・江戸末期(1830~)には、看護人(養生所看病中間(ちゅうげん)やその配下の役掛)への上納金が発生し、幕府はやめさせようとしたが、正規の給料が安いため看護人が不足し、黙認せざるをえなかった。貧窮している病人でその上納金を払える人が少ないため入院者が減少(市場原理で上納金額が決まっていたのでしょう)。それでも1/3くらいは病床は埋まっていたそうです。
・全快で退院した人は全期間を通して50%強でほぼ一定。
・内科以外にも外科の患者も多く、肉体労働者(大工など)の事故による怪我や火消(消防士)のやけど。火災対策も目安箱のアイデアを取り入れて大岡越前が整備しています。目安箱は記名制で、良い提案にはあとで奉行所から問い合わせがあったそうです。
・初期の年間予算は840両、1両は約20万円なので、2億円弱、結構高いですね。患者は入院期間2か月限度で150人とすると最大900人なので、一人10~20万円になります。これは患者の食費と薬代は入っていますが、医師の給料は除いています。妥当な金額ではないでしょうか。
・養生所に継続的に薬を寄付していた商人がいたそうです。最近、病院建設に200億円余を寄付した人(元キーエンス重役)がニュースになりましたが、昔にもいたのですね。
上記の本では小伝馬町三丁目・茂兵衛という名前が代表例として取り上げられています。検索すると小林一茶の俳友(サポーターの一人?)で「虱紐」を売る幸手屋茂兵衛さんというのが出てきます(一茶「手伝って虱を拾へ雀の子」)。薬屋さんだったのでしょうか。俳諧をやるような知的で裕福な商人は競って良いことをしようとしたのではないかと想像します。江戸時代は貧富の差は激しかったようですが、社会が安定していた理由がわかりますね。
https://kotobank.jp/word/%E8%99%B1%E7%B4%90-535627
https://opac.aichi-pu.ac.jp/kicho/kohaisyo/books-outline/027_498_1.html
英語は welfare の関連語。
welfare =1 the health, happiness, and fortunes of a person or group. 2. statutory procedure or social effort designed to promote the basic physical and material well-being of people in need 日本語の福祉、とだいたい同じですね。「祉」は神の恵み、という意味だそうです。
benefit 利益
pension 年金
insurance 保険
health 健康
prosperity プロス「ペ」リティ 繁栄
weal ウィーる 古語 幸福、福利 level 23
well-being 健康であること
contentment 満足
felicity フェりシティ 慶事、名文句 level 26