ドン・キホーテ(12) さようならドン・キホーテ

金曜日のドン・キホーテは今回で終わります。大学を卒業したばかりの村の若者で司祭候補生のサンソン・カラスコ扮する銀月の騎士に倒されたドン・キホーテは、サンチョ・パンサと村に戻ります。途中で贋作のドン・キホーテ第2部に出てくる紳士と出会い、話をした結果、紳士はこちらが本物であちらが偽物であることを納得し、居合わせた公証人に証書を作ってもらいます。ドン・キホーテは村に到着し、自宅で眠りについたあと、高熱を発します。六日間患って、医者は心痛の為であり、命が危ないと診断します。その後深い眠りから覚めると、正気に戻っていました。
騎士道物語を本当のことだと信じてさまよっていたのは誤りだった、間もなく死ぬから、司祭に懺悔をさせてくれ、遺言の公証人を呼んでくれ、と言い、サンチョ・パンサや友人たち、さらに姪と家政婦と話を交わし、3日間時々目覚めて周囲との別れの時間を持った後、善人アロンソ・キハーノとして息を引き取ります。
サンソン・カラスコによる墓碑銘は次のようなものです。これは、私が子供の時に読んだ現代文よりもこの訳(片上伸・島村抱月訳、明治か大正です)のほうがいいですね。
ここに勇壮なる郷士眠る/生前かつて恐れを知らざりし人/死に際しても、最後の時にさえ/死もまた威圧し得ざりし人/彼は世をものともせざりしが/彼の所業は世を震駭せしめたり/狂人として世を送りしも/さはれ遂に正気にて身まかれり
最後は、著者(イスラム教徒ムーア人哲学者のシーデ・ハメーテとの設定)がペンに向かって言う独白で終わっています。「もうドン・キホーテは死んだのだから、次の冒険の書は書かれてはならない。騎士道物語の馬鹿馬鹿しさはこの本で証明されたので、ドン・キホーテの物語の役割は終わった。」という趣旨です。
今回の紹介ではドン・キホーテたちの気の毒な失敗はごく一部以外は割愛しました。物語の筋は粗いところがありますが、細部の叙述や間接的な心理描写には心を打つところがあります。現代西洋文学の創始という評も納得です。また、「風車に立ち向かうドン・キホーテ」という、それまでになかったアーキタイプを作ったところが偉大な創造だと思います。下記のような見方もあります。色々な読み方ができる傑作だと思います。https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n249/n249_09.html

“But not even this could bring Don Quixote out of his sorrow.”
sorrow 悲しみ
“His friends called the physician, who took his pulse,… and said there was no doubt that he should attend to the health of his soul because the health of his body was in peril.”
physician 医者、内科医
take one’s pulse 脈をとる
in peril 危機に瀕する
“It was the physician’s opiion that melancholy and low spirits were bringing his life to an end.”
melancholy 鬱
low spirits 気分の低下
“When the confession had ended the priest came out and said: “Alonso Quihano the Good is truly dying, and he has truly recovered his reason; we ought to go in so that he can make his will.”
confession 告解、懺悔
Alonso Quihano the Good 善人アロンソ・キハーノ
reason 理性
will 遺言(書)
“I was mad, and now I am sane.”
sane 正気
“He did not esteem the world;/ he was the frightening threat/ to the world, in this respect, / for it was his great good fortune / to live a madman, and die sane.”
esteem 尊重 「彼は世をものともせざりしが・・・」以下の訳です

※ 来週から金曜日は J.D.Vance著 Hillbilly Elegy: a memoir of a family and culture in crisis (2016)を読みます。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hillbilly_Elegy

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