個人用冷却器の続き。より低温の熱捨て場があることが前提ですが、熱を輸送するには「冷却水の循環」という方法があります。なぜ循環させる流体として水が使われるのでしょうか?もちろん安く大量に存在することもありますが、室温1気圧で体積当たりの比熱が最も大きい流体であることも重要でしょう。
https://www.apiste.co.jp/pcu/technical/detail/id=4059
ポンプでパイプを通して循環するわけですから、体積あたりの熱容量(体積比熱)が重要です。1㎝3あたりの比熱は、水4.184J/cm3/K, 水銀1.9J/cm3/Kです。
氷は2.1J/cm3/Kで、液体であることが比熱の大きさに関係あることがわかります。
比熱は、理想気体の場合は高校でも習います。1分子あたり(モル当たり)の分子運動の自由度が決めていて、エネルギー等分配則から1自由度あたりR/2の比熱になります(R=8.314J/mol/K)。
水は1モル18g, 密度が1g/cm3なので、4.184J/cm3/Kは75.2J/mol/K で、これは9R=74.8J/mol/Kと近い値です。
9Rになる理由は、水分子あたり3原子。各原子への熱エネルギーの分配は、運動エネルギーの自由度がx,y,zの3、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)の自由度も3なので、1つの原子当たり6の自由度があり、それにR/2をかけて3Rになる。それが分子当たり3原子なので9R、という説明になります。固体物理で習うDulong-Petitの法則の発展です。
モル当たりの比熱にすると、多原子分子で分子内自由度が多いものは大きくなり、必ずしも水が最大ではありません。
水素と酸素の結合長が小さいこと、水素結合で分子間距離も近いことが体積当たりの原子密度を高くしていることが水の体積当たりの比熱が高い理由だと思います。
ちょっと気になる情報を見つけました。固体から液体になるとモル熱容量は3Rから4Rになるとのことです。
https://jp.quora.com/%E6%B0%B4%E3%82%88%E3%82%8A%E3%82%82%E6%AF%94%E7%86%B1%E3%81%8C%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AF%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B
調べてみると下記の論文が2021年に出ていて、液体の振動モードである instanteneous nomal modeを計算すると、液体になる時の比熱の変化が説明できるとのことですが、温度が上がると減少しています。これはinstanteneous normal modeの寿命が短くなって、熱エネルギーを保存できなくなるため、という結論になっています。また、温度が低い時はとくに4Rに収束しているわけではないようです。
https://link.aps.org/accepted/10.1103/PhysRevE.104.014103
融点直上で4Rになるということでしょうか。融解の時に何かの自由度が2増えるのだと思いますが、すぐにはわかりません。わかったら報告します。
英語は https://link.aps.org/accepted/10.1103/PhysRevE.104.014103 から。
specific heat 比熱
heat capacity 熱容量
molar heat capacity モル熱容量、モル比熱
instantaneous 瞬間的な
normal mode 基準振動モード
“This Arrhenius dependence was fortuitously captured by Granato’s interstitial defect argument, although its true physical origin resides in the INMs(instantaneous normal modes) and in the many saddle points of the energy landscape.”
Arrhenius dependence アレニウス型の依存性
fortuitously 幸運にも、偶然にも She was fortuitously rescued by a passer-by. 彼女は幸運にも通行人に救助された。
reside in ~に存在する、~に住んでいる。~にある。
saddle point 鞍点(あんてん) 馬の人が乗る所のように、一方向には極小、一方向には極大になっている曲面の点。
※ いろいろ平均すると指数関数が出てくるのはよくあることです。乱れによる半導体バンドギャップのすそ野 Urbach tailもそうだと言われています。
energy landscape 通常、エネルギー地形 と訳しています。原子位置の変化でどのようにエネルギーが変化するか、という多変数の曲面のことです。