Also Sprach Zarathustra(6)永劫回帰の予感

金曜日のZarathustraは第二部の末尾、Zarathustraが夢にうなされます。理由は、「永劫回帰(えいごうかいき)」という「真理」にうすうす気が付いてしまったからです。なぜ「永劫回帰」という認識が必要で、なぜそれがそんなに恐ろしいのか、はニーチェでないわれわれにはわからないところです。後世の解釈もいろいろです。私は、これは個人から見た時間と運命に関する一つの考え方だと評価しますが、恐ろしさは感じません。
さて、「永劫回帰」とはなにかというと、ある時間間隔ですべては全く同じように繰り返すという世界観です。そんなばかな、と思うかもしれませんが、19世紀末の数学と物理学ではそういう認識が行われていて、ニーチェがその一員であったヨーロッパの知的階層で流行していたのだと私は理解しています。数学とニーチェの前後関係を私は誤解していたのですが、今回文献をいくつか見つけたので来週解説します。「個人からみた時間」に関する考察のきっかけになる面白い概念だと思います。

以下、一人語りの劇だと思うとよくできていると思いませんか。和訳は岩波文庫版を参考にしています。「偶然の救済者」はいいですね。進化の過程で絶滅した生物たちは救済できるのでしょうか…

And how could I endure to be a man, if man were not also the composer, and riddle-reader, and redeemer of chance! もし人間が創作者、謎の解明者、偶然の救済者であるのでなければ、どうして人間であることに耐えられるだろう!
To redeem what is past, and to transform ever “It was” into “Thus would I have it!” – that only do I call redemption! 過ぎ去った人間たちを救済し、すべての「そうあった」を「私がそのように欲した」に作り替えること、これこそが私が救済と呼ぶものだ。
Will – so is the emancipator and joy-bringer called: thus have I taught you, my friends! But now learn this likewise: the Will itself is still a prisoner. 意思は解放者であり喜びをもたらすもの、とわたしは皆さんに教えたが、今回はこれも教えよう。意思はそれだけではまだ囚われ人なのだ。
Willing emancipatheth: but what is that called which still putteth the emancipator in chains?
“IT was”: this is the Will’s teeth-gnashing and lonesomest tribulation called. 意思することは自由をもたらすことだ。この解放者をもなお鎖につないでいるものがある。それは何か?「そうあった」これこそ意思が歯ぎしりしてこの上なくさびしい苦しみをかみしめるものである。
Impotent towards what hath been done — it is a maclicious spectator of all that is past.
意思はすべての過ぎ去ったものに対しては怒れる傍観者なのだ。
・・・
Yesterday at the stillest hour did the ground give way under me: the dream began.
The hour-hand moved on, the timepeice of my life drew breath – never did I hear such stillness around me, so that my heat was terrified. 昨日もっとも静かな時、大地が足元から失われて夢が始まった。針は刻々と動き、私の生命の時計は息を殺していた。これほどの静寂を私は身の回りに聞いたことがなかった。私の心臓は震え上がった。
Then was there spoken unto me without voice: “THOU KNOWEST IT, ZARATHUSTRA?” –
そのとき声なき声が語り掛けた「わかっているね?、Zarthustraよ」

endure エン「デュ」ア  耐える
composer 作曲家、創造者
riddle-reader 謎解きをする人 riddle 「リ」ドる=なぞなぞ
redeemer 救済者 リ「ディ」ーム redeem 救済する > redemption 救済 
emancipate 自由にする、解放する level 12 Lincoln emancipated the slaves. リンカーンは奴隷を解放した
a prisoner 囚人 a prisoner of war 捕虜
teeth-gnashing 歯ぎしりするような ティーす ナッシング gnash(きしらせる)のgは発音しません。
lonesome ひとりぼっちの、さみしい lonesome George ガラパゴス諸島のピンタゾウガメの最後の個体 この種は乱獲で絶滅しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8
tribulation 苦難、試練、艱難(かんなん) level 14
malicious マ「り」シャス 悪性の、悪意を持った level 9
spectator スペク「テ」ータ 傍観者
draw breath 息をころす
impotent 無力な
still 静かな、動かない

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