金曜日のZarathustraは、概要を解説してから第一部の最初を読みましょう。余談ですが、論理的な思考力や文章の構成力を鍛えるには、文章を要約する訓練が即効性があります。例えば、4冊のZarathustraを1文で、400字で、3ページで要約しなさい、などの問題を自分に課してみるといいと思います。最初は添削が必要かもしれません。社会人向けの講座もあるようですが、大学受験生向けの通信添削講座(Z会など)の難関国語コースが実はコスパがいいと思います。chat-GPTが(将来は)うまく模範解答を作ってくれるかもしれませんね。
さて、2文で要約すると、「神のない新興宗教の教祖であるZarathustraの言行録の体裁で書かれた哲学書である。超人思想と永劫回帰がメインテーマで、鋭い警句がたくさん出てくる」となると思います。説教が主体、深い会話はZarathustra自身の独白と「重力の魔」との会話のみで行われていて、感情移入の対象になる登場人物はほとんど出てきません。
第一部は「Zarathustraの説教」と題されていて、10年間山にこもって暮らしていたZarathustraが自分の考えた思想を人々に伝えたくなって山を下りてきます。途中で「隠者(森の聖者)」と出会い言葉を交わし、「なんということだ、彼はまだ「神が死んだ」ということを知らないとは」となります。最初に人々に「超人 Ubermensch」について説教をするのが綱渡り師のイベント会場で、説教中に綱渡り師は悪魔(おそらく後で出てくる「重力の魔」)に邪魔されて落下して死んでしまいます。この部分の説教は現代人(おしまいの人間たち)の倫理的没落と「超人」へのあこがれを語っていて、19世紀末の時代の空気を伝えています。成熟した社会の憂鬱と希望の交錯は140年後の現代でも通用する論点です。文章は繰り返しをうまく使って力強さを出しています。
英訳本から印象的な文を抜き出してみましょう。
“Man is the rope stretched between the animal and the Superman – a rope over an abyss.”
人類は動物と超人の間にわたされた深淵を超える架け橋である。
“We have discovered hapiness,” – say the last men, and blink thereby –”
我々は幸福を発見した。おしまいの人間たちはこう言ってまばたきする。
“I tell you: one must still have chaos in one, to give birth to a dancing star. I tell you: ye have still chaos in you. Alas! There cometh the time when man will no longer give birth to any star. Alas! There cometh the time of the most despicable man, who can no longer despise himself.” 踊る星を生むためには人は内に混沌を秘めてなければならない。今はまだ汝らのうちには混沌がある。しかし、人類がどんな星も産めなくなる時が来る。ああ、自分に不満を持たなくなった最も軽蔑すべき人類の時代がくる。
“When he was just midway across, the litle door opened once more, a gaudily-dressed fellow like a buffoon sprang out, and went rapidly after the first one.”
綱渡り師が中間まで渡り終わったとき、小さな扉がもう一度開いて、道化師のような品のない衣装を着た者が飛び出してきて最初に出てきたもの(=綱渡り師)を素早く追っていった。
“I knew long ago that the devil would trip me up. Now he draggeth me to hell: wilt thou prevent him?” …”thou hast made danger thy calling; therin there is nothing contemptible. Now thou perishest by thy calling: therefore will I bury thee with mine own hands.”
「悪魔が俺を罠にかけることはずっと前から分かっていたんだ。奴に地獄に連れていかれる。妨害してくれますか?」(…魂も地獄もないから心配はいらない…自分は餌をもらって演技を見せる動物みたいなものだった…)「汝は危険を職業とした。そこにはなにも軽蔑すべきことはない。汝は汝の職業によって滅びる。それゆえ、私は汝を手づからほうむってあげよう」
ye そなたら、汝ら you の古語、複数。単数の丁寧語(あなた)がyouで、それが現代に残りました。
cometh comeの古語、3人称単数現在形
wilt willの古語 2人称単数現在形。現代語では「しおれる」「植物の立ち枯れ病」
despise デス「パ」イズ 軽蔑する level 5
gaudily ゴーディリー 品のない level 30
buffoon 道化師
draggeth drag の古語
thou 汝=you、 thy =your。 thee = you(目的格) 2人称単数のくだけたかたち(きみ、おまえ)
the calling 天職 (←天から呼ばれた職業)
persishest = perish 滅びる thouを主語にするときに語尾変化した形
Zarathustra’s discourses 説教
※「踊る星を生む」はイメージが浮かび元気が出る美しい言葉ではないでしょうか。この本がベストセラーになって数十年後に、「我々に従えば超人になれる」という集団が現れたらどうなるか、については来週です。