フランクリン北極探検隊の鉛中毒

今日は悲劇のフランクリン北極探検隊(1845)を取り上げます。
これは、北極探検の最初期に行われた、カナダの北側を通って大西洋と太平洋を結ぶ航路(北西航路)を見つけるための遠征です。イギリス海軍肝いりで行われましたが、129人(133人?)の隊員が全滅しました。北西航路を確立したのは、南極点一番乗りのアムンセン(1906)です。優秀な人は複数の業績を上げますね。私のみるところ、要因は才能だけでなく、性格や仕事のやり方が対象(と時代)に合っている場合が多いと思います。これは「運」を構成する一つの要素だと思います。合う対象を探すか、自分を変えるか、気にせず自分を貫くか、人それぞれですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%81%A0%E5%BE%81

1年半、氷に閉じ込められてから船を捨てたようです。見つかった遺体の分析から、何人かの死因として挙げられているものは鉛中毒で、海水を蒸留して飲料水にするための装置を鉛を含むはんだ付けで作っていたため、また缶詰のはんだ付けの鉛が原因ともされています。こういう経験があるためか、欧州は鉛について規制を強めています(鉛フリーはんだを要求するRoHS規制など。リサイクル不能な電子回路から環境に鉛が出るのを嫌っているのでしょう)。ペロブスカイト太陽電池は鉛を含むので、完全リサイクルが要求されると思います。下記によると鉛中毒による死者は1年間に世界で54万人だそうです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Lead_poisoning
航空機用にはまだ有鉛ガソリン(テトラエチル鉛を含み、発火温度(発火点)を上昇させる効果によって出力向上)も使われているようです。
毒性の原因は、wikipediaによると、ラジカル発生によるDNA損傷や細胞膜損傷、ニューロンのイオンチャンネルの誤動作、また硫黄原子に結合することによるいろいろな酵素の妨害とのこと。下記は酵素が鉛原子に結合した部分が3Dで見えます。
https://www.rcsb.org/3d-view/1QNV?preset=ligandInteraction&sele=PB

最近、フランクリン探検隊の船が海底で発見されました。遠からずいろいろな謎がわかるものと思われます。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO50761400Y9A001C1000000/

The harmful effects of lead are myriad. 鉛の有害な影響は無数にある。
myriad 「ミ」リアッド 無数
transcription 転写
solder はんだ
soldering はんだ付け
発火点 firing point; burning point; ignition point; fire point
anemia ア「ニ」ミア 貧血 brain anemia 脳貧血
hypotention ハイポテンション 低血圧症
hypertetion ハイパーテンション 高血圧症
acute porphyria 急性ポルフィリン症 (ヘモグロビン合成酵素の不調で体内のポルフィリンが増え、排せつ物が紫色になる) porphyrin はラテン語で紫色の色素の意味だそうです。
Lead is able to pass through the endothelial cells at the blood brain barrier because it can substitute for calcium ions and be uptaken by calcium-ATPase pumps. 鉛は脳血流関門の内皮細胞を通過する。それはカルシウムを置換してカルシウム-ATPaseポンプから吸い上げられるためである。
cerebral cortex 大脳皮質 セ「レ」ブラる と「セ」レブラる の両方のアクセントがあります。 「コー」テックス
Pb2+, like Mg2+, block NMDA receptors. Therefore, an increase in Pb2+ concentration will effectively inhibit ongoing long-term potentiation (LTP), and lead to an abnormal increase in long-term depression (LTD) on neurons in the affected parts of the nervous system.  これは読めますね。
※ NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)制御型グルタミン酸受容体(Na+,K+,Ca2+用イオンチャンネル)のMg2+によるブロックは正常動作なのですが(応答に非線形性・時間依存性を与える)、Pb2+は同様にブロックするが挙動が違うので神経毒性(震え、性格異常、痴呆)が出るとのことです。神経は化学と電気の両方が出てきて面白いので、改めて解説の機会を設けたいです。

Leave a Comment

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA