今週の「武士道」は、第12章”The Institutions of Suicide and Redress”「切腹(せっぷく)及び敵討(かたきうち)」からです。幕末の開国に伴い、切腹についても海外で紹介されるようになりました。神戸事件(1868)の責任を取って列国外交官の前で切腹した武士の例が詳細に引用されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%88%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
さらに敵討を含めて衝撃的な例をいくつか述べた後、真の武士は自分の命を大切にするものであるとして以下の記述です。
And yet, for a true samurai to hasten death or to court it, was alike a cowardice. A typical fighter, when he lost battle after battle and was pursued from plain to hill and from bush to cavern, found himself hungry and alone in the dark hollow of a tree, his sword blunt with use, his bow broken and arrows exhausted – did not the noblest of the Romans fall upon his own sword in Philippi under like circumstances? – deemed it cowardly to die, but with a fortitude approaching a Christian martyr’s cheered himself with an impromptu verse:
Come! evermore come,
Ye dread sorrows and pains!
And heap on my burden’d back;
That I not one test may lack
Of what strength in me remains!
(語句解説)
institution 制度、設立、研究所
redress リド「レ」ス 矯正する、正す、悪いものの原因を取り除く(level 11) ここでは、institutions of redress (正す制度)で「敵討ち」の訳です。
and yet = but これは文章語ではよく出てくるので、覚えるべき。
court カート は動詞としては、機嫌を伺う、求愛する、得ようと努める (名詞としては裁判所)
cowardice 「コ」ワダイス 臆病
cavern 「キャ」ヴァン 大きな洞窟 (level 10)
hollow of a tree 木の”うろ”(穴) (hollow 形容詞 では うつろな、中空の)(level 4)
blunt 鈍い、刀がなまくら
bow ボウ 弓 バウ と発音すると、お辞儀をする、船のへさき という意味になります。
arrows exhausted 矢が尽きた
Romans… Philippi フィリッピの戦い(紀元前42年) 共和制と三頭制(→帝政)の戦い(三頭制が勝利)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%94%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
・・・フィリッピの戦いの高貴なローマ人なら自刃するところだが、この武将は死ぬのは臆病だと思って、殉教者に近い不屈の精神を発揮して以下のように口ずさみ、元気を奮い起こした・・・ という意味です。
deem 思う
fortitude 剛勇、堅忍不抜、不屈の精神 (level12)
Christian martyr 「マ」ーター(発音注意) キリスト教殉教者 (level 10)
impromptu インプ「ロ」ンプテュ 即興の (level 11)
verse ヴァース 詩句
Ye 汝(なんじ)ら (level10)
dread ドレッド 恐れる ここでは、古語(形容詞)で「非常に恐ろしい」でしょう
heap 積みあがる
burdened back 重荷を背負った背中
(解説)
ここで取り上げられているのは、山中鹿之介(1545-1578)だと思います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%AD%E5%B9%B8%E7%9B%9B
ゲーム「信長の野望」では倒しても何度も復活する武将として登場しますが、実際10年間にわたって4回(3回)の「無理ゲー」をよく企画実行しています。
昔の絵本や修身の教科書には「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ」「憂き事のなおこの上に積もれかし、限りある身の力試さん」と月に祈った伝説が描かれており(私も見たことがあります)、和訳本では上記verseは後者(実は戦闘経験のない陽明学者・熊沢蕃山(1619-1691)の歌)になっています。
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000112366
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/mana-biz/2016/10/post-148.php
子孫は別の職業で発展したので救いがありますが、今の価値観とはだいぶ違いますね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B4%BB%E6%B1%A0%E7%9B%B4%E6%96%87
この人は陽明学の普及よりも昔の人ですが、同じ系統の思考法で、日本独特のエートスと言えるかもしれません。結局は目標のたて方の問題でしょう。西郷隆盛の最後の「無理ゲー」、旧・日本軍の行動も類似点があると思います。私もおそらく影響を受けていますが、身内や支持者を不幸にしないように注意する必要があります。