Stable Diffusionの仕組みを大学1年生に講義することは可能だと思います。実際にプログラムの各部を触りながら2コマ(3時間)といったところでしょうか。背景知識も足すとあと1~2コマ必要、ちゃんとやると半年くらいで機械学習やデータ科学のかなりの部分を伝授できそうです。朝のメールではその余裕はないので、面白そうな概念を拾ってみましょう。
画像に少しノイズを足してできたボケた画像を与えて、そのノイズを除去するニューラルネットワーク(画素ごとにパラメータを1つずつ持つ非線形並列演算をまとめながら多層に組んだもの)のパラメータを学習させます。ここで学習というのは、できるだけうまくノイズを除去するように一群のパラメータ(全体で10億個で、1000段階でノイズを加えるので1段階あたり100万個?)を調節することを指します。面白いと思ったのは、元の画像を復元することに注目するとうまくいかず、除去するノイズが「最もノイズらしくなる」ように調節するとうまくいったとのことです。個々の画像には普遍性はないが、ノイズには普遍性があるということですね。確かにそうでしょう。思い出したのは「アンナ・カレーニナの法則」です。
これはトルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭の文章「幸福な家庭は似ているが、不幸な家庭はそれぞれの姿で現れる(意訳)」からとったもので、「要因が全部満たされないといけないプロジェクトはそれぞれの要因によりいろいろなパターンで失敗しやすい(私の個人的な解釈)」だそうです。アリストテレスも同じことを言っているとか、文化人類学に応用が利くなど、wikipediaには書いてあります。日本語版で熱力学に言及しているところは意味が通りません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%8A%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
英語版は改訂されて変な記述はなくなっていますが、フランス語版は日本語と同じです。ロシア語、ドイツ語(短い)はそれぞれまた違います。
https://fr.wikipedia.org/wiki/Principe_d%27Anna_Kar%C3%A9nine
それはさておいて、上記のStable Diffusionの部品の考察と合わせると「ノイズは幸福と似た性質を持っている」という命題ができます。データを採ろうとする実験では論外と言われそうですが、人生一般では真理かもしれません(?)。
英語は https://en.wikipedia.org/wiki/Anna_Karenina_principleから。
“The Anna Karenina principle states that a deficiency in any one of a number of factors dooms an endeavor to failure. Consequently, a successful endeavor (subject to this principle) is one for which every possible deficiency has been avoided.”
principle 原理、法則
state 述べる
doom ドゥーム 破滅させる、破滅を運命づける doomsday 終末の日
endeavor 努力
deficiency 欠陥
”All happy families are alike; each unhappy family is unhappy in its own way.” これがトルストイの文の英訳です。
be alike 似ている
“The Anna Karenina principle was popularized by Jared Diamond in his 1997 book Guns, Germs and Steel. Diamond uses this principle to illustrate why so few wild animals have been successfully domesticated throughout history, as a deficiency in any one of a great number of factors can render a species undomesticable. ”
domesticate 野生動物を家畜化する
Guns Germs and Steel 銃・病原菌・鉄 文化人類学者 J.A.Diamond の有名な本。下記の6条件が家畜化に必要とのことで、全部満たす野生動物は少なかったので家畜の種類が少ないとの説です。
diet 食物
growth rate 成長速度
captive breeding 捕獲下で繁殖が容易なこと captiveは捕虜、捕獲された動物。 breedは飼育、交配
disposition 気質
tendency to panic パニックを起こす傾向