ドン・キホーテ(10) Barataria島の太守サンチョ・パンサの活躍

今週のドン・キホーテは、Barataria島の太守サンチョ・パンサの活躍です。相変わらず変なことわざを連発しながら会話しますが、うがったものもあり楽しめます。就任テストのような3つの裁判、それから裁判官が匙をなげたものを1つさばきます。
(1)二人の老人が金貨十枚の貸し借りで争っています。裁判で、サンチョ・パンサの前で貸したほうは返してもらっていない、という主張、借りたほうは、ここで返したという主張を神に誓うから、借りたほうに杖を持っていてくれと言います。宣誓を聞いてサンチョ・パンサは借りたほうの主張を認めますが、最後に杖を調べよ、と命じます。すると金貨10枚は杖の中に入っていました。誓っている最中には杖は貸したほうが持っているので、嘘は言っていません。驚く役人たちに似た話を教会で聞いたことがあると言い、サンチョ・パンサの記憶力に感嘆です。
(2)男女間のトラブルです。興味がある人は本文を読んでください。
(3)農民客が仕立て屋に布を持って来て、この布で帽子を作ってくれと頼みます。余った布を横領するのではないかと疑い、帽子を作れるだけ多数作ってくれ、と言います。布は大きいわけではなく、言い方に腹を立てた仕立て屋は5つでいいかと確認した後、指にかぶせられるような小さい帽子を5個納品しようとします。客は、手間賃は払わない、布を返せ、と主張して裁判になります。サンチョ・パンサの判決は、「仕立て屋は手間を損、客は布を損、帽子は牢役人にくれてやれ」です。
(4)歴史的な経緯で、渡るときに見張りの役人に渡る目的を言わないといけない橋があります。嘘をつくと縛り首です。若者が来て、「橋を渡って縛り首になりに来た」と申告します。これはロングセラー「逆説論理学」で「サンチョ・パンサの逆説」として紹介されているものです。縛り首にすると本当のことを言ったことになり縛り首はおかしい、縛り首にしないと嘘つきになるので縛り首、というパラドックスで、「逆説論理学」ではゼミで学生が答えた「半殺し」という説などが面白おかしく紹介されています。サンチョ・パンサの判決は、「わからないときは慈悲の心で」で無罪、です。これはドン・キホーテがサンチョパンサに与えた訓戒の中にあったとのこと。
その後、さまざまな有用な法律を一日かけて制定し「大総督サンチョ・パンサの憲法」としてBarataria島(実は人口千人の村、公爵領中、要地でないもので最大)に末永く伝えられたそうです。同時進行で、公爵夫人からサンチョパンサの妻と娘に手紙と贈り物が届けられ、当人たちは大喜び、司祭とサンソン・カラスコは半信半疑です。気の毒なエピソードが多い本ですが、こういう流れは心が休まっていいですね。

英語で見てみましょう。
“the old man with the walking stick gave his walking stick to the other old man for him to hold while he took his oath,…”
walking stick 歩くための杖  …ingが目的の意味を持つ文法の良い例です。
take his oath 宣誓する
creditor 貸し手
debtor 借り手
“Then is this length of cane worth ten gold escudos?” “Yes”,said the governor, “and if not, the I’m the biggest imbecile in the world. And now we’ll see if I have the brains to govern a whole kingdom.”
escudo お金の単位
cane 杖
governor 知事、太守、為政者
“Everyone present laughed at the multitude of caps and the unusual nature of the case. Sancho reflected for a while and said: “It seems to me that in this case there’s no need for long delays, for it can be judged quickly by the judgment of a sensible man, and so my verdict is that the tailor should lose the cost of his labor, and the peasant his cloth, and the caps should be taken to the prisoners in jail, and that’s the end of that.”
reflect for a while しばらく考えて
a peasant ペザント 百姓
a tailor 仕立て屋
case 事件
verdict 判決
“… because just as the truth saves him, the lie condemns him; … my master Don Quixote, the night before I came to be govenor of this insula, and it was that when the law is in doubt, I should favor and embrace mercy;”
condemn 咎める、責める、非難する
embrace 抱く
mercy 慈悲

※ Don Quixoteもあと2~3回で終わります。次の本としては、米国共和党の副大統領候補になったJ.D.Vance氏(39才)の自伝 “Hilbilly Elegy”を読もうと思います。特異な経歴の持ち主で、近未来のアメリカを予測するには重要だと考えます。

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