昨日紹介した2019年の論文 https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.aaw8160
は、購読していないと読めないかもしれません。
言語のデータベースから、24の感情にかかわる近い意味の単語を抜き出して相互のつながりを見たものです。
データベースをどうやって作ったかが気になりますが、例えば英和辞典で英単語の意味の説明に出てくる日本語を並べるとお互いの関係が近いかどうかわかるという仕組みでしょうか。
24の単語は英語で hate, anger, bad, envy, worry, sad, gloomy, hope, desire, want, proud, happy,like, joy, love, good, merry, fear, surprised, anxiety, shame, pity, grief, regret
です。例えば、grief, regret, pity, shame, anxietyなどは言語によって意味の近さが変わることは想像がつきます。
“universal”(全体)では、worry-sad, happy-joy-like-love, fear-anxiety-grief-regret-pity-surprised など関係の強い塊が見えますが、言語によっては異なっています。
6つの主要なlanguage family についてまとめて解析しています。日本語は、altaic language familyに属すると言われていますが今はaltaic language family自身の存在に疑義があるようで(disputed)、この論文では扱われていないように見えます。
(Austroasiatic, Austronesianには入っていないと推測します)。
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_language_families
言語が3000もあるとは知りませんでした。
このデータは24個の感情(英語での)同士の関係性の強さのネットワーク構造、すなわち24個の感情を頂点としてそれぞれを結ぶ線に関係の強さを表す数値がついているもの、の比較になります。
統計的解析に使われているのは、adgusted Rand index (ARI) と Akaike information criteria (AIC)です。 AICについては以前説明した気がするので、ARIを説明します。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E6%8C%87%E6%95%B0
2つの言語間でつながりがあるかどうかの判定が一致しているものの数を全体の組み合わせの数で割ったものがランド指数(0から1の値)、
ランダムな組み合わせの期待値を引いたものが調整ランド指数のようです(負の値もとりうる)。
この論文では、感情を表す単語についての分析と色を表す単語についての分析を比較しています。ARIの頻度を表すヒストグラムががはっきり違うという結果が出ています。
英語はこの論文から拾います。
hate 憎しみ
anger 怒り
envy 羨み(うらやみ)
gloomy 不吉な感じ = unhappy and without hope, not expecting or believing anything good in a situation (Cambridge Dictionary)
merry うきうきしている感じ
grief 深い悲しみ
regret レグ「レ」ット 後悔、残念に思うこと 英語では、就活の「お祈りメール」でも使います。 We regret to inform you that we cannot hire you in this occasion.
permutation-robust 置換に対して安定な
“Emotion semantics thus vary widely across language families, and their variation is significantly greater than variation in color semantics.”
semantics 意味論 と訳しますが、ここでは「感情を表す単語は言語族の間で大きくばらついている。そのばらつきは色を表す単語よりずっと大きい」
significantly ずっと、有意に
“We tested this hypothesis by correlating the geographic proximity of language families with their pairwise ARI values.”
“These associations suggest that emotion semantics do not vary randomly; their variation is tied to the cultural evolutionary relationship between language families.”
associations 連関
cultural evolution 文化的進化