半導体加工技術の最先端

昨日の東京エレクトロンの投資家用資料(pdf注意)から面白いところを1つ解説します。
https://www.tel.co.jp/ir/policy/mplan/cms-file/IR_Day_20211012_J.pdf
の76枚目~90枚目が現在の半導体微細加工の最先端だと思います。
GAA(Gate-All-Around)トランジスタは、flash memoryだけではなく論理回路にも使われるようですが論理回路では電子の高速移動が必要なので、結晶性が良くなければならないため、シリコン基板上にエピタキシャル成長したSi/SiGe超格子を作っています。それぞれの厚みは数nmでそれは蒸着源を切り替えれば作れます。その後、高純度HClガスを供給して温度を上げ、Siのみを溶かしているのではないかと思います。
Si+2HCl→SiH2Cl2 ↑ などの反応で、気体として除去するのでしょう(SiH4は常温で期待。SiCl4(注)も沸点58℃)。その際、温度等の条件を制御してSiGeは溶けないようにするという芸術的なプロセスです。なぜSiGeを残すかというと、Siは(間接半導体であることと関係)正孔の移動度が低いのですが、SiGe(SiとGeの合金)はバンド構造が変わって正孔の移動度が高くなることを利用しています。そうやって作ったナノシートの周りに金属ゲートを取り巻くようにCVDしてナノシートGAAトランジスタができるというものです。ゲートが半導体の薄いシートを取り巻いているため、電界が半導体内部まで侵入しスイッチングが速くなる(=早く演算ができる)という利点でしょう。
下記は2009年の記事ですが、SiGeという材料の話です。おなじ材料でも現在は1桁nmの大きさで積み重ねたりくるんだり、半導体技術が格段に進んでいるのが分かります。
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/0907/01/news122.html
日本の半導体技術は一部の製造装置では食い込めていますが、実際の製作は条件出しが恐ろしく労働集約的な仕事になります。それに見合う報酬(TMSCでは一人数億円のボーナスもあるという噂)と根を詰められる労働環境(働き方改革に逆行しますが・・・)がないと壁を乗り越えらえないかもしれません。インテルの苦戦は、このような制度的・文化的なものがあるのではないかというのが私の考えです。条件出しの試行錯誤を自動化→機械学習が置き換えるとまたゲームチェンジがあるかもしれません。当然各社狙うところだと思います。さて我々はどうすべきでしょうか。

(注)SiH4(シラン)は大気中で発火・爆発する猛毒物質です。

SiCl4(塩化シラン)は気軽に買える試薬ですが、空気中の水分と反応してSiO2になり瓶のふたが固着します。その際、内圧も数気圧まで上がっているので、無理に開けようとすると瓶が破裂し大けがをします。目も危険です。また、その際にSiCl4が飛散し空気中の水分でSiO2の微粉末が霧となって建物中に広がります。・・・なぜそれを知っているかは秘密です。

silane スィ「れ」イン SiH4 シラン、モノシラン 
trench 溝
conformal
vertical ヴァーティカル 垂直の
horizontal ホリ「ゾ」ンタる 水平の
stack 積む
wrap ラップ くるむ
labor-intensive 労働集約的な(=やたら手間がかかる)

“The actual production is a terribly labor-intensive job to establish the conditions. Without commensurate compensation (rumored to be several hundred million yen in bonuses at TMSC) and a working environment where one can keep concentrating on work regardless of one’s fatigue (which goes against the work style reform…), one may not be able to overcome the obstacles.”

commensurate コ「メ」ンシュレイト、格子整合 という業界用語ですが、「(価値に)見合った、相応の」というのが一般的な意味です
an obstacle 「オ」ブスタクる 障害物

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